第3話 次期辺境伯

翌日、伯爵家にクレイン次期辺境伯がやって来た。

綺麗な金髪を短く切り揃え、水色の瞳。


 顔立ちも整っており、他の令嬢からもその噂は聞いていた。


「お久しぶりですね。ラース嬢、一段とお美しくなられて」

「ご無沙汰しております」

「伯爵、この度はこのような席を設けて頂きありがとうございます」

「とんでもない。立ち話も何ですから、座って話しましょう」


 ラースたちはソファーへと腰を下ろす。

その時、クレインの左手に包帯が巻かれているのが見えた。


「クレイン様、その手は……」

「ああ、これですか。お恥ずかしい話、王都に来る途中に凶暴な魔獣に襲われましてね。その時に負傷してしまったのです」


 クレインが左手を押さえながら言った。


「よかったら、治しましょうか?」

「え、できるんですか?」

「ええ、大丈夫だと思います」


《部分ヒール》


 ラースはクレインの左手に治癒魔法をかけた。

これは、癒しの魔法の適正があれば誰でも使えるものである。

上級となればその限りではないが、ラースは癒し魔法なら大抵は使える適正があった。


「すごい、痛みが引きました」

「もう、包帯を取っても大丈夫ですよ」


 包帯を取ったクレインの手には傷跡もほとんど残っていなかった。


「まさか、これほどとは……」

「無事治ってよかったです。では、本題に入りましょう」


 ラースはその場を仕切り直した。


「そうですね。ラースさん、私の妻となっていただけないでしょうか?」

「その前に、一つ確認させてほしい」


 父が口を出した。


「はい、何なりと」

「それは、娘に対する同情からのことか?」

「それも無いと言ったら嘘になります。しかし、私は昔からラースさんのことをお慕いしておりました」

「ほう……」


 クレインははっきりラースの目を見て言った。


「しかし、ラースさんはすでに公爵家の息子と婚約しておりました。私は絶望しましたよ。でも、私が王都にいるこのタイミングでラースさんは婚約破棄された。これは、神が与えてくれたチャンスなんだと思い、参った次第です」

「本気なんだな」

「もちろんです。必ず、幸せにして見せましょう」


 その言葉に嘘はないように聞こえた。


「それなら、私からは何も言わん。ラース、自分で決めなさい」

「わかりました。私、クレイン様と婚約させて頂きます」

「そうか。幸せになりなさい。クレイン殿、娘を頼む」


 そう言って、父は頭を下げた。


「頭をお上げください。もちろんです」


 父とクレインは握手を交わした。


「急になりますが、私は明日には王都を離れて領地に戻ります。一緒に来てくれますか?」

「はい、わかりました。準備をしておきます」

「ありがとう。では、私は残りの仕事を済ませてきます。あなたと過ごせるのを楽しみにしておりますよ」


 そう言って、クレインは微笑みを浮かべた。

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