似合わないスーツ4
「こんにちは。少しお話いいですか?」
涼太君が、塚本さんに声を掛ける。
「ど、どなたですか?……あれ、久住先生まで!」
塚本さんは、動揺した様子で言葉を発した。
「僕は、こういう者です」
涼太君が、鞄から警察手帳を取り出し塚本さんに向けた。涼太君の勤務する交番では、休日でも手帳を持ち歩くよう指導する方針らしい。
「警察!?」
塚本さんが目を丸くした。久住さんも驚いた様子だ。そういえば、涼太君が警官だと紹介していなかった。
「何かトラブルですか?封筒を押し付け合っているようでしたが」
「あ、あの、俺……」
「しょうちゃん、早くこれを持って行きなさい」
塚本さんの言葉を、女性が遮った。焦って塚本さんに封筒を渡そうとしている。『しょうちゃん』とは、誰の事だろう?塚本さん本人も、違う人物の名で呼びかけられて目を丸くしている。
「どうしたの、ばあちゃん。翔太の名前なんて口にして。翔太はばあちゃんの孫でしょう?俺は……健一だよ」
「まあ、誤魔化さなくたっていいのよ、しょうちゃん。私がしょうちゃんから借りていたお金、ちゃんと返すからね」
「え……」
塚本さんが、訳が分からないといった表情をしている。
今の話を聞くと、「翔太」がこの方のお孫さんの名前のはず。どうして孫でもない塚本健一さんを「しょうちゃん」と呼ぶのだろう。
「とにかく、俺は刑事さんに話さないといけない事があるから、一旦落ち着いて、ばあちゃん」
塚本さんが女性を宥めてから、涼太君の方に向き直る。
「あの、刑事さん、俺……」
言いかけた時、「うっ」という呻き声が聞こえたかと思うと、女性が胸を押さえて、その場で蹲ってしまった。
「ばあちゃん!!」
塚本さんが叫んだ。
「どうしたの?また胸が苦しくなったの?」
塚本さんの問いに、女性が苦しそうに頷く。塚本さんは、女性のズボンの前方に付いているポケットから薬らしきものを取り出すと、女性に手渡した。
女性は薬を口に含んだ。舌下錠というタイプの薬らしい。数分して少し落ち着いたようだが、まだ息が荒い。
「念の為、病院に連れて行った方がいいんじゃないか?」
久住さんが、心配そうに言った。
「そうですね。……ばあちゃん、病院に行こう?」
塚本さんが優しく微笑んで女性に話しかける。
「……大丈夫よ、これくらい。少し休めば良くなるわ」
「いいから、病院に行くよ!」
塚本さんが、険しい顔になって言うと、女性は渋々といった様子で頷いた。
しばらくして、塚本さん、久住先生、涼太君、私の四人は公園の近くにある病院の待合室にいた。あの高齢の女性は今診察室にいる。
「……君は、あのおばあさんの孫じゃないんだよね?どういう事か、説明してくれないかな」
涼太君が、塚本さんに話しかけた。
「僕……僕は……あの人を、騙していたんです」
塚本さんは、悲痛な表情で告白した。
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