第11話:竜と対戦

 禁書閲覧室の薄い本、3分の2くらいまで読み進めた。

 危うく死にかける主人公の様子に、先日のエカが被る。

 本の主人公にも「命大事に」って、言ってやりたい。

 本の世界には死者蘇生の術は無いんだから、エカ以上に気を付けないといけない。

【治癒の力】というのは、回復魔法やポーションよりも効果が低いみたいだ。

 傷は治すけど生命力は回復しないんじゃ、戦闘中は使い勝手が悪そう。

 そんな事を思いながら、読書タイムを終えた俺は禁書閲覧室を出た。



 通常空間とは隔離された、神様の修行空間。

 本日のレッスンメニューは、いつもと違った。


「今日はこれと戦ってみなさい」

「え、これですか?」

「剣術だけで、どこまでやれるか試せばよい」


 アチャラ様が召喚したのは、どこから見ても西洋竜にしか見えない巨大生物。

 以前、松本先生の特別授業で召喚された竜は倒した事があるけど、それは身体強化魔法あればこそだ。

 当時はまだ普通の6歳児程度の能力しかなかったから、今とはだいぶ火力が違う。

 素の攻撃力はそこそこ上がってるけど、硬い竜の身体に斬撃のダメージが通るかな?

 訓練の成果を調べるため、とりあえず試してみよう。

 俺は神様が作り出した竜に挑んだ。



 溜めからダッシュしての斬撃。

 当たったけど、頑丈な鉱石のような鱗に弾かれた。

 竜は「ん? なんか当たったか?」みたいな顔してこっちを見る。

 ノーダメージかよ。

 予想通り、硬いなぁ。

 竜が仕掛けてくる爪攻撃は、完全回避が発動して俺には掠りもしない。

 獲物を捉えられず宙を泳ぐ前脚、その関節部分の鱗の隙間に剣を刺してみると、皮膚に通ったようで竜の血が吹き出した。

 大したダメージにはならなかったようだけど、一応攻撃が通ったぞ。

 痛かったのか竜はお怒りで、今度はシッポで攻撃してくる。

 それも勿論当たらないから、構わず跳躍して竜の頭に乗り、目を狙って剣を突き出したけど、竜は瞼を閉じてそれを防いだ。

 むう、なかなかやるな。

 それならこっちだと、俺は竜の頭から鼻先へ跳んで、鼻の穴に剣を突き刺す。

 鼻血を吹き出して咆哮する竜から飛び降りると、またシッポ攻撃がきた。

 当たらないシッポに構わず、また跳躍して頭に乗ろうとしたら、竜も二度は同じ手を食らわないらしく、カッと口を開けて火炎を吐いてくる。

 なら、狙うのはその口だ。

 火炎なんか俺には効かないから、そのまま竜の口の中に飛び込む。

 俺を食うつもりか、竜がバクンと口を閉じた。


「イオ!」


 あれ? なんかエカの声がしたような?

 ここにいるわけないから、多分気のせいだな。


 そう思いつつ、俺は無防備な竜の舌に剣を突き刺した。

 鱗が無いから楽に刺さる。

 噴き出す血と共に苦悶の声を上げる竜は、この程度では致命傷には至らない。

 竜が俺を吐き出そうと頭を振るので、深々と突き刺した剣に捕まりつつ踏みとどまる。


 こいつを殺るなら体内の核を破壊だ。


 間近で聞く竜の咆哮がうるさいけど、完全回避の効果で俺の鼓膜や聴力に異常は起きない。

 俺は竜の口から喉を通り、胃の中まで進んだ。

 普通の生物がこんなところに入ったら、胃酸に溶かされるだろうね。

 でも俺の場合は、竜の胃液を浴びる事も踏む事も無い。

 竜の胃の中で、胃液は俺を避けるように離れて滴り、足元に溜まっている胃液は俺から退いて、円状の安全な場所が確保された。

 俺は胃壁に近付くと、切り裂いてその向こうへ出た。

 竜が絶叫した声が聞こえる。

 麻酔無しで胃を斬られたら、そりゃあ痛いか。

 切った傷から噴き出る竜の血も、俺を避けるように飛び散ったり流れたりする。

 おそらくこの血液も有害物質なんだろう。

 切り裂いた胃壁の向こう、やや上の辺りに真紅の球体が見える。

 それが竜の心臓、核と呼ばれる物だ。

 竜は悶絶しているらしく、かなり揺れる。

 俺は跳躍で距離を詰めて、竜の核に剣を突き刺した。

 剣が刺さった部分からヒビが広がり、紅い球体が砕けて消える。

 ひときわ大きな叫び声の後、竜の全身が硝子のように砕けて消え去った。


「イオ!」


 また、エカの声がする。

 竜が消えて空中に出た俺は、床に着地すると声がした方を見た。


「あれ? なんでエカがいるの?」


 見慣れた赤い髪の青年がいる。

 と思った直後、エカはダッシュでこちらへ駆け寄ってきた。


「大丈夫か?! どこか怪我してないか?!」


 エカ、何故か俺を心配してるぞ。

 俺には完全回避があるから、怪我なんてするわけないのに。


「怪我はしてないよ。それよりなんでエカがここに来てるの?」

「心配する側の気持ちを分からせようと思って、こちらへ呼んだのだよ」


 俺が訊いたら、エカの後方で悠々と寛いでるアチャラ様が答えた。

 なるほど、いい考えだと思う。


「ね? 死なないと分かってても不安でしょ? 命大事にしないエカを心配する人の気持ちが分った?」

「わ、分った。今までごめん」


 どこか怪我してないかとあちこち見て確認してるエカに、俺は言ってやった。

 エカはすぐ謝るけど、俺がしてほしいのは謝る事じゃない。


「命大事に、これ絶対ね」

「お、おう」


 これでエカも、少しは計画的に爆裂魔法を使ってくれるかもしれない。



※11話画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093080298475445

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