Day 2-④ 鈴原あゆ美

「何ぶつぶつ言ってんの?ほら、バンザイ!」

 手を挙げる間も無く、星子先輩の手が腰に回る、私のお腹に先輩の鼻が触れる、栗色ロングストレートの髪、甘い上昇気流、締め付ける感覚「苦しいです」「ちょっと緩めるね――どう?」「いい感じです」「銃に対してホルスターが大きすぎるかもね。ま、その辺は後でなんとかするとして、先ずはガンベルトの説明をするね」

「はい」

「ガンベルトは早撃ちには欠かせないアイテム。例えるなら早撃ちは刀の居合い抜きのようなもの。つまり、刀に対する鞘イコール銃に対するガンベルトってわけ」「なるほどねぇ」右肩の悪魔が頷く、私も頷く。

「ベルトに装着されているこの袋状の入れ物をホルスターと呼ぶ。普段はここに銃を収めておく。銃を入れる向きは”抜き撃ち”の方法によって前後どちらを採用する場合もある――」

「抜き撃ちってなんですか?」

「銃の抜き方のこと。スタンダード、クロス、クイック、騎兵抜き、そして隠し撃ち、色んな銃の抜き方があり、それぞれ最適なホルスターの位置とグリップの向きが違うの、あゆ実!」

「はい?」

「右利き?左利き?」

「右……いや左かな?」

「どっち?」

「実は両利きです」

「字を書くときは?どっちの手を使う?」

「右です」

「背中が痒いときは」

「場所によりますね」

「そりゃそうか……お箸を持つ手は?」

「左です」

「アレする時は?」

「アレってなんですか?……あ」

「どっち?」

「背中が痒いときと同じです」

「困ったわね。じゃあ、ここに杉並幸太郎が立っています。はい、殴ってみよう……左ストレート、じゃあ、ホルスターは左に装着するね」

「そうなんですか?」

「人を殴るときの利き手が左ってことは、銃を撃つ利き手も左よ。ちなみに杉並と勝負した時はどっちの手で銃を構えていた?」

「右です」

「次は左で撃とう。それだけでも少し早く撃てるようになる」

「”少し”ってどれくらいですか」

「ゼロコンマ数秒よ」

「たったの?」

「そう、たったの。でもそのたったの小数点以下の僅かな時間が、殺すか殺されるかを左右する。殺されたい?」

「いえ」

「じゃあ、殺したい?」

「はい」

「なら左に銃を差して!このガンベルトとホルスター、スモールメーカーの安物だけど、造りはしっかりしてるの、わかる?ナイロン製、色はブラック、どう?締め付ける感覚」

「そんなにきつくないです」

「ちょっときつくしてみようか」

 腰を抱き、お腹に顔を埋める星子先輩、耳がほんのり色付いている――気がする。天使と悪魔が顔を見合わせる。「え?あ、はい」

「どう?きつい?」

「き、きついです」

「いい顔」

「え?」

「あゆ美の腰、細いね。お尻はどう?」

「ちょっと、止めてください」

「杉並に勝ちたいんでしょ?」

「……はい」

「そんな顔しないで、お尻触るだけ、それだけよ。今日の所はね。いいでしょ?」

「……少しだけなら」

 言い終わらぬうちに、星子先輩の指がお尻の割れ目に沿って下に降りてきた。

「駄目っ!」

「なんで駄目なの?」

 瞳が潤んでる――音が聞こえてきそうなほど。雰囲気は大人っぽいけど、顔は小さな女の子みたい。

「正直良く分からないんですそういうの。でもまた機会があったら、教えてください」

「やっば、本気になっちゃったかも」

 指が離れていく――何故か微かに寂しく感じる。天使がびっくりしている。

「私、あゆ美のこと全身全霊でサポートする。その代わり、あゆ美の望みが叶ったら、杉並とのガンファイトに勝利することができたら――抱かせて」

 悪魔が微笑む。私とそっくりな歪み方で。

 杉並幸太郎を殺せたなら――。

「私のこと、好きなようにしてください」

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