EP19 災禍前奏(後編)
「聞いて、夕星。……私ね、『こんな世界、いっそ全部、ブッ壊れちゃえばいいのに』って願っちゃったの」
その独白を聞かされた夕星の脳内は、真っ白になってしまった。
「何言ってんだよ……全然っ意味がわかんねぇよ……」
だって、おかしいじゃないか。自分の知る藤森(ふじもり)陽真里は生真面目な幼馴染で、バカみたいなお人好しで、それで……
「いつも偉そうなこと言ってるのに、最低だよね……だけど、もう一つだけ貴方に伝えたい言葉があるの」
困惑する夕星に構わず、彼女の手がそっと頬に添えられた。冷たくなってしまった指先に、思わず血の気が引いてしまう。
「こんな私の友達でいてくれて、ありがとう……大好きだよ、ゆう────」
ブツリ、と。電源の落ちたイヤホンが沈黙するように、その続きを聞くことは叶わなかった。
「……見つけたぞ、〈エクステンド〉のエゴシエーター」
背後から、また足音が近づいて来た。厚手のブーツが、剥き出しになったコンクリートをコツコツと踏み鳴らす。
「その娘(こ)は貴様と恋仲だったのか? だとしたら、悪いことをしたな」
「………うるせーよ」
「だが、安心しろ。貴様もすぐに葬ってやる」
「だから……うるせぇって言ってんだろうがッ!」
勝手に陽真里が死んだような言い方をされるのが何より気に食わなかった。夕星は身を翻し、渾身の胴回し蹴りを放つ。
だが、それは半歩引いた麗華の三角帽を掠めるだけで、カウンター気味に突き出された打突が額を割る。
「クソッ……! この程度ッ!」
陽真里の死はまだ確定していないのだ。止まった脈を観測したわけでも、心音が途絶える瞬間を聞いたわけでもないのだから。だから、夕星は願う。────「彼女を生かしたい」と。
旋回する歯車状の瞳を見開きながら、大声を張る。
「俺を助けろッッ!! 〈エクステンド〉ッッ!!」
「馬鹿の一つ覚えだな」
麗華は淡として、吐き捨てる。
〈エクステンド〉の本体がここにない以上、夕星のエゴシエーター能力が影響を及ぼすまでにタイムラグを孕むことは、周知の事実だ。
だから、夕星は数十秒を稼ごうとする。短い詠唱から飛び出してくる鎖をサイドステップで躱し、麗華の懐へと飛び込んだ。下手な喧嘩殺法が通じないのは学習済みだ。
だったら、と口を大きく開けて麗華の手元に食らい付いく。
「このッッ……!!」
クローブ越しに思いっきり、歯を突き立てやった。
「ひひったら、はへなんたよ(ビビったら、負けなんだよ)ッッ!!」
二人が停滞する最中に、再びミサイルが突っ込んできた。白煙が麗華の視界を侵そうとするも、彼女は「×××」と短な詠唱を終える。
皓い光の幕が、バリアのように彼女をすっぽりと覆ってみせた。その得意げな顔は「同じ手を二度も食わん」と言いたげだ。
だが、夕星も見逃さなかった。ミサイルと共に廃ビルへと飛び込んできたシルエットがもう一つ。
「助けに来たよ、神室(かむろ)くん」
それが腰に下げた大太刀を抜き放とうとする一部始終を。
未那月(みなつき)刀剣術────子(ね)式・抜刀。振るわれた銀線は容易くバリアを断絶し、魔女の三角帽を切り裂いてみせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます