吸血少女はハニーブラッドをご所望です
真ケ部 まのん
吸血少女はハニーブラッドをご所望です
♯0.Prologue
ここに一冊の本がある。刊行はいつごろなのか、数十年の経年劣化で表紙は黄ばんでふるぼけている。
一見すると、まだ幼い子供に読み聞かせとして使われる絵本のたぐいであるように見えるが、持ち主にとってはそれ以上の意味を持つ。
絵本の内容は、ある一族の中で何代にもわたって語り継がれてきた大切な教えであり、伝承だ。
たよりない豆電球だけの明かりが照らす一室で、今、幼い娘が規則正しく寝息をたてている。小さな胸を上下させて、愛らしい頬に長いまつげの影を落としている。
手をのばし、彼女は娘の頭をなでた。みぞおち辺りまでずり落ちた掛け布団を肩までかけてやる。
さっきまで手にしていた絵本の表紙に目を落とした。もはや必要ない、と。あのときから読まずにしまっていたそれを引き出しの奥からひっぱりだした。
今までに何度となく読んだ最初のページをめくる。
◇◇◇ーー吸血鬼と恋。
むかしむかし、ある村にひとりのかわいそうな女の子がいました。女の子はこの世に生をうけたときから、吸血鬼です。
女の子は食欲をみたすため、さまざまな男の子の血を吸いました。同じ女の子からではなく、異性の血をもらって何十年も何百年も生きていました。
吸血鬼の女の子は男の子の血をもらうことで、老いることなく、ずっとずっと生きられます。
ところがあるとき、村の外でであった男の子に食欲とはちがう感情をもちました。
女の子は人間の男の子に、なんと恋をしてしまったのです。想いを寄せる男の子も同じ気持ちでした。
ふたりはお互いの気持ちをたしかめあい、ともに生きようと誓いました。けれど、その誓いはかないません。
女の子はともに生きられない男の子を想い、悲しみに暮れました。
何年たっても姿のかわらない女の子のそばで、男の子は年老いていき、とうとう息をひきとってしまいます。
かわいそうな女の子は男の子を埋めたお墓のまえで泣きました。何日も何日も泣きつづけました。
大好きな男の子をうしなったことから、女の子は日に日に衰弱し、やがては姿もかわり、目をつむったまま動かなくなりました。
同じ人間に生まれていたら、こんなに悲しい想いをすることはなかったのに。
かわいそうな女の子はつよい悲しみをのこしたまま、天に召されてしまったのです。
おしまい。
◇◇◇
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