138.街ごとの特色
サラヘイたちが王都へ帰っていって数日が経ち、今度はトラックから連絡があった。どうにも暇を持て余しているのでローメンデル山へ狩りへ行くらしい。その帰りにバタバ村へ寄ると言ってくれたのだ。
こちらもお客さんが来なくて暇なので歓迎すると伝え、ついでに羊皮紙を買ってきてもらうよう頼んでおいた。夕飯時にその話をしていたらヴィッキーが冒険者組合へも寄ってきてと言いだして、結局好意でくれた連絡だったのにお使いばかりが増えてしまった。
「やっぱり王都との物資輸送にも人員は必要ね。
戦士団の交代を半月ごとにすればいいかな。
どうせだから人数も増やしてもらおうかしら」
「そんなの勝手に決めちゃって平気なの?
戦士団は王国の防衛をする人たちなんでしょ?」
「ミーヤったら何言ってるのよ。
このバタバ村だって王国の一部でしょ。
とは言ってもカナイ村には常駐員がいないからピンと来ないか。
でも、ジスコやヨカンドには戦士団が常駐しているのよ?
コラク村へも巡回しているしね」
「なんでカナイ村には来ないのかしら。
やっぱり遠すぎるから?」
「それもあるけど、カナイ村はジスコ領だからね。
あとはローメンデル山とモウス村もかな。
王国の一部と言ってもジスコは独立国に近い立場よ」
「なるほどね、色々複雑ってことはわかったわ。
同じ国と言っても共存のために協力してるって感じかしら」
「お父様曰く、ジスコには資源も産業もないわりに強気だって。
王都は大農園を抱えている国の食料庫、ジスコは努力しないで恩恵を受けてるって考えてるみたい」
「確かにその通りよね、ジスコには特別なものって無かった気がするわ。
一体どうやって民の暮らしを守っているのかしら」
「一見なさそうだけど意外にあるのよ?
食肉や魔鉱、羊毛や毛皮なんかもジスコから来るものが多いわ。
王都の近くは農園開発が進みすぎて獣がかなり少ないの」
「王都に比べたらジスコは田舎だものね。
カナイ村なんてさらに何もないわ」
「なにもない場所なんて無いわ。
ジスコに集められる羊毛はカナイ村やコラク村等から集められたものよ。
それが王都へ運ばれて布になるってことね」
ヴィッキーが説明してくれたように、王都トコストだけで産業は成り立たないらしい。ジスコ自体には特産物もなく農場も広くないがなぜか商人の出入りは多い。そこに何か秘密があるのだろう。ローメンデル卿はもしかしたら有能な政治家で、その手腕によって商人を囲うことに成功したように思えてきた。ただ変な靴を履いて変な話し方をする変な人との印象を改めるべきか。
それよりもヴィッキーとの会話の中で見過ごせない言葉が出た。地方から集めた羊毛を王都で布地にしているとのことだ。そして王都の大農園では綿花の栽培もおこなっている。つまりここから導き出される答え、それは王都には織り機があると言うことだ。探し求めていたと言うほど賢明に探していたわけではないが、今まで何のヒントもなく入手は絶望的だと思い込んでいた。
しかしどうやら光明が差したようである。織り機がいくらくらいするのかだけでもわかれば今後の目標になるだろう。問題はヴィッキーが簡単に教えてくれるような物なのか、もしかしたら国家機密的なものではないかと言う心配だ。
「ねえヴィッキー? 王都では布を作っているの?
羊毛の不織布ではなくて織物を作っているのか知りたいのよ」
「ええ、作ってるわよ。
城の隣に結構大きな紡績織布工場があるの気が付かなかった?
大池の反対側だから立ち寄ることが無いかもしれないわね」
「全然気が付かなかったわ。
ところでそこで使っている織り機なんだけどどこかで購入できるかしら」
「うーん、王都には作れる職人がいないはずだから無理だと思うわ。
うちではヨカンドに注文しているのよ。
設置は自前でできるけどね」
おそらくは発酵器と同じように設置に大工スキルが必要なのだろう。作るのは細工? いや大工スキルだろうか。もしかしたら両方かもしれない。
細工だけならナウィンに作ってもらえるだろうが、織機の構造や規模からすると細工製品とは思えない。これはもう少しヴィッキーに話を聞いてみる必要がありそうだ。
「なんで織機を王都では作れないの?
どんな職人なら作れるのかしら」
「実のところ私も知らないわ。
でも王都の製造職人に聞いても誰も作れなかったのよ。
仕方なくヨカンドの工場から譲ってもらうことにしたわけ」
「それまではヨカンドでし布をか作ってなかったの?
もしかしてすごい昔の話なのかしら」
「父上が生まれる前の話らしいわね。
それから何十年も経っているのに、いまだにヨカンドの職人が製造方法を独占しているのよ」
「なるほどねえ、ジョイポンの塩製造と同じようなものかあ。
でも売ってくれると言うことはそれほど秘密にする気はないようにも思えるわね」
「そこはよくわからないわ。
鍛冶製品だってヨカンドが独占してるようなものだし、もちろん鉱山もね」
「なんだか王国と言っても一枚岩じゃないって感じ。
どの街も誰でも利権が欲しいのは変わらないのかもね。
そんなことが原因で物騒なことにならないといいんだけど」
この世界にも大昔は戦争があったらしいし大勢の人が亡くなったと聞く。対立や諍いをゼロにすることはできないだろうが、皆で資源を分け合いながら平和に暮らせるならそれに越したことは無い。考え事の多い一日だったが、今日もお客さんが来なかったことがその一因でもある。やることが無くて暇だと頭を働かせるくらいしかすることがないのだ。
せっかく給仕服に着替えて待ち構えていたレナージュとチカマは元の私服へと着替え、ヴィッキーや他の従業員ともども遅い夕餉の席を囲むのだった。その席ではナウィンが作った湯沸かし器の設置について大工さんと打ち合わせをしたり、集客や新店舗の勧誘について等、結構現実的な話が主で退屈だったのか、チカマはテーブルに突っ伏して寝入ってしまった。
街ごとの違いは分かってきたが、バタバ村でなにをするにしても後追いでは到底追いつけない規模である。やはりここならではの特産品を活かす方向で話はまとまった。特産品、特色、そして宣伝を頑張っていくしかない。
真面目な話ばかりだったからか、意外にも酒宴と言う雰囲気にならなかったので、レナージュもヴィッキーも、そしてミーヤも早めに床へついたのだった。
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