15 ルームメイト


 キャム・テイラー……瀧亞瑠斗たきあるとは元日本人で私を散々ひどい目に遭わせて自分だけ異世界へと転生したので、私は彼に復讐するべくこの世界へやってきた。


 彼は生まれが第3階位貴族グラッズリエヴロンという王族血統以外では最上位に位置する貴族で、父親はベルルクという街とその一帯を治める領主で私とは明らかに違い、恵まれた条件でスタートを切っている。


 おまけに10年前……国家級災害とみられるニオギ・ヒュドラを賢者バロアとふたり・・・で討伐したという噂が吟遊詩人などによって、この10年で国内どころか大陸中に彼の武勇伝が広まっている。正直レオナード第1皇子よりも人気が高いかもしれない。


 私とサラサもあの場にいたのに自分の手柄にするとは相変わらずの性格の悪さで安心する・・・・。この学院生活でどんな目に遭わせてやろうかと今からワクワクが止まらない。


 今日は入学式だけで終わった。この魔法学院は全寮制のため残りの時間は部屋の掃除などにあてることになっている。


 入学式が終わると私たち新入生は地階へと降りていく。もちろんここは水上都市……地階というのは水中に造られた居住空間で外壁は透明なガラスでできており、外には色とりどりな魚が泳いでいる。


 内壁は普通のコンクリートのような質感だが、叩くと高い音がするので、もしかしたら空洞になっているかもしれない。床には絨毯が敷かれ、天井板は木で設えていて、木目と木彫りのレリーフが調和していて美しくあってかつ品性を感じる。


 ふたり一部屋の造りだが、部屋のなかはかなり造作が入っている。ドアを開けると中央に縦長のスペースがあって、ドアのすぐそばに左右に階段があり、上はベッドで下はデスク周りが配置されていて、ひとつの部屋を上下ふたつに分けてあって無駄がない。


「あ、あの……初めまして」

「よろしくね、私のことはシリカって呼んで」

「あ、はいシリカさん」


 ずいぶんとオドオドとしている。視線が右に左に行ったりきたりして私と視線が合わないまま互いに自己紹介を済ませた。


 乙女ゲーでは主人公サラサが私友人のシリカと同室になるのだが、エマ・リュールという緑髪、緑眼のメガネをした子と一緒になった。この辺がなぜゲームと一緒じゃないのかは私にはよくわからない。サラサの友人であるシリカは本来、成績は割といい方だが、新入生でトップではなかったし、悪役貴族キャムは英雄ではけっしてなかった。私や瀧亞瑠斗たきあるとがこの世界に転生してきたから本来のストーリーからズレてきているのだろうか?


 なるべくゲームの正規ルートになるように努力したいと思う。サラサがレオナード第1皇子と恋仲になり、キャム・テイラーは皇子に目をつけられ、1学年の終わりごろにはキャムを遠ざけることができる。


 それに私の推しはなんといってもレオナード皇子の右腕、才色兼備なロニ・ゴットフリート。ゲームを進めていくなかで皇子といいムードになる主人公サラサを無理やり引き剥がして、ロニへ猛アプローチして彼の心を射止めて、ロニルートでエンディングを見た。


 でもなぁ……サラサみたいな白金髪の誰もが振り返るような絶世の美女ではなく、まあ、そこらにいる普通の美女程度の見た目だからな……高望みはよしておこう。


 それにアイツ……瀧亞瑠斗たきあるとのせいで恋愛するのが怖くなってしまった。普通の中等部に通っていた頃、それなりに男子からモテた私は何度か告られたが、すべて丁重にお断りした。この手の話については私にはもう少し時間が必要なんだと思う。


 部屋の片づけや先に配送で送っておいた大きな荷物を開けて、整理が終わった頃に夕食のチャイムが廊下から聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る