11 「99」の首


「〝空間歪曲現象ジューダスメイド〟じゃ、国家級災害が発生しおった」


 空間歪曲現象という単語は初めて聞いた。でも国家級災害というのは魔法史で習った。発生すると国が滅んでもおかしくない魔獣や魔物が発生したことを意味する。


 バロアの話だと空間歪曲現象は空間が外界と隔絶されて、外からの干渉ができず、内側から逃れられない現象だそうで、これを解決するにはその原因である魔獣や魔物を討伐しないといけないそう。空間歪曲現象は時間経過とともに拡がっていき、その境界に触れると圧し潰されてしまうという。


「やむをえまい、倒すしかあるまい」

「イヤだよ。どこにも行きたくないよ」

「倒せる見込みはあるのですか?」

「ちと……いや、かなり厳しいの……情報もないし、ワシとそこのシリカだけでは厳しいやもしれん」

「私も光魔法でお手伝いします」

「ほう、お主、光の聖女じゃったか? 相手によっては有効やもしれぬ」


 キャムが激しく怯えている。まあ5歳児なんだから無理もない。キャムとは対照的にゲームの世界で主人公のサラサは特に怯えた様子はなく、冷静に状況を把握しようとしている。


「サラサ、下女の分際で勝手な真似をするなっ!」

「しかし、キャムさま、ここで魔物を止めないと街が滅んでしまうかもしれません」

「そんなの俺が……ボクが知ったことか!」


 自分勝手でワガママ……あと今、「俺」って言った。ある可能性が私シリカの頭のなかに浮かびあがった。


「ここに残ってもよいが、他に魔獣が出現するやもしれんぞ?」

「くそっ行けばいいんだろ行けば!」


 足を引っ張りそうで怖いけどここに残したら、サラサまで巻き込まれてしまう。バロアが脅したらついていくと決めたらしい。


 ✜


「ふむ、みたところ幻獣種のようじゃが文献でも見たことがないわい」


 遠くから観察している。数えきれないほどたくさんの蛇の頭が鎌首をもたげ、あらゆる角度を見渡しながらゆっくりと移動している。


「こやつ、ベルルクの街の方向へ向かっておるぞ」


 手元の地図を確認してバロアが教えてくれた。このままでは本当に大災害が起こってしまう。


(シリカ、少しいいですか?)


 頭のなかで声が響いた。私は顔を少し上げたが、化け物に見つからないようすぐに草むらのなかへ身を沈めた。


(アールグレイです。そのまま聞いてください)


 私は少しだけ、顎を引き、アールグレイの言葉に首肯した。


 目の前にいる多頭型の蛇の巨大魔獣はニオギ・ヒュドラと言い、バロアの見立て通り幻獣種だそう。頭の数は正確には99もあり、再生能力を持っていて首を刈り取っても数分で再生してしまうので、首を切断後、その切断部を焼却すると再生が止まると教えてくれた。すべての首が無くなると、数時間透明になり逃走を図る。逃げた先で岩山に擬態し約300年の休息ののち、再び動き出すというとても厄介な魔獣とのこと。


(倒し方を知ればそちらの〝ことば〟を熟知した魔法使い殿であればなんとかなるかもしれません)


 大丈夫、とは言ってくれない。昔、国で1、2を争うような魔法の実力者でも相討ちに持っていくのがやっとだった相手……。


 ならば私が少しでもバロアの助けにならねばならない……バロアも私の魔法は評価してくれている。


 バロアにニオギ・ヒュドラの弱点を伝える。なぜそれを知っているかなどと無駄な質問を返したりしない。バロアは私の話を聞いて、考え始めた。しばらくして、キャムとサラサの使える魔法とだいたいの魔力量を聞き取ったあとすぐに作戦を伝えた。


 ✜


「〝眩光星弾スター・シェル〟」


 聖女の光魔法って主人公としてゲームで操作している時はあまり感じなかったが実物をみるとたしかにチートだと実感できた。まさか無詠唱でいきなり魔法をぶっ放すとは。


 ニオギ・ヒュドラを中心にまぶしく点滅する大量の光の粒が視界を攪乱するために撒かれた光魔法で、光属性の魔法の使い手は国内でも数人しかおらず、さらに〝極彩色フォース〟と呼ばれる光魔法を使えるのは聖女であるサラサしかいない。



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