第18話 王国を守護する国

 俺が練っている計画としては、まず魔王を死者の森で復活させ協力関係を結び、このロベルト王国に報復を果たす、というものだ。


 しかしこの計画には大きな問題がある。

 ここロベルト王国を含むユーザシア大陸には五つの国が存在する。すべてロベルト王国を囲む様な形で位置しているため、常に小規模な争いが絶えないらしい。

 

 東にはシベリア帝国となる国が存在し、魔道具の製造が盛んな国家であり皇帝と呼ばれる人物を頂点に置いている。ロベルト王国に販売されている魔道具のほとんどがこのシベリア帝国の輸入品だとか。

 

 次に西に位置するはルゼット共和国。

 国の中には幾つもの鉱山があり、王家や貴族が身に着ける高級なドレスやアクセサリーなどの装飾品に使われるのはここで採掘された宝石だ。唯一他国との争いを避けようと奮闘している国でもある。


 南には海峡都市アトランタ。

 海に囲まれた島に存在する独立国家。どの国家とも協定はおろか貿易も行わず、国を挙げての自給自足を公約に掲げている。そのため人々は以前の俺のように農作業に追われ、疲れ切っているという印象が目立つ国だ。


 そして最後に北に位置するは、ロンゾ聖王国。

 聖王国と呼ばれるだけあって複数の宗教で国家が成り立っていると断言してもいいだろう。この国の人々は早朝に起床し、教会へと出向き神に祈りを捧げる。そして幸せな日々を過ごせるようにと祈るのだ。

 宗教が基盤となるだけあってこの国には救いを求める人々が数多く集まっている印象を受ける。

 人口が増える分、働き手も多いため生活必需品を他国へ支出し、財政を安定させているようだ。


 そんな四カ国が王国の周りに存在する以上、なかなか手を出そうにも出せないのだ。なんせロベルト王国は莫大な金をこの四カ国に支払い、どこぞの国に責められた時の保険として防衛に当たるよう条約を交わしているからだ。


 例えば、魔国との争いを有利に進めるための手段ということだ。しかしロベルト王国の旗の基に集結しているだけのこと。あくまでロベルト王国を守護するため最低限の関係を築いているが、その国の領地を狙う争いに関しては一切関係のないことだ。


 王国自体が無能なのかはわからないが、このまま小規模な争いとはいえ続行していると、やがて戦力は激減し大変な自体に陥るというのに……まったく理解していない。


 まあ、俺達にとっては好都合ではあるが。


 他国の話はこのぐらいでいいだろう。

 で、俺たちが外に出ると、互いに寄りたい場所がないかどうかを確認し合った。


「俺は旅立つ前に少々調べ物がある」


「わかったわ。リヒトは図書館に行くんでしょ? じゃあ私は旅に出るのに必要な物資を買いに行ってくるわ」


 そう言いリーズは物資を調達しに行き、俺も王城近くに佇む王立図書館に向かった。

 図書館に入った俺は周囲をよく確認する。図書館内は山のように本が棚に整頓されていた。


 面識のある人物がいないことを願いつつ、もう一度周囲を確認した。

 そして最奥にある一冊の不気味な本を手に取ったのだ。


「これが『魔王討伐伝記』だな」


 伝記を手にした俺は近くの椅子に腰掛けた。

 中身を静かに読み始める。記されていたのは、ロベルト王国が誕生して百年経った頃の話だった。


 王国の土地を狙った魔王軍が突如侵攻を始め、魔王は死者の森と呼ばれる場所にまで進行した。

 その森にある洞窟に陣取ったらしい。


 ロベルト王国の目前に広がっているドルキス平原で大規模な争いが勃発したようで、開始早々魔王軍が優勢だったのだが、当時のロベルト王国の国王が異世界から勇者を召喚したことで戦況は一気に覆った。

 ロベルト王国は勇者を筆頭に魔王軍を壊滅させ、勇者は魔王が陣取っていた死者の森に出向いた。そして魔王との激闘の末、勝利を収めたのだ。


 魔王軍に勝利した勇者はのちに英雄となり、それ以降ロベルト王国は魔王への対策を最重要と考え、自国を守護する四カ国の建国を転生者と呼ばれる異世に命じたという。


 それが今のシベリア帝国、ルゼット共和国、海峡都市アトランタ、ロンゾ聖王国の四カ国となる。


 しかし不可解なことに倒したはずの魔王の遺体はあれから現代に至るまで行方不明のまま。さらには魔王が陣取っていた死者の森の洞窟さえも姿を消したとある。


 これが魔王軍とロベルト王国の二大国家の結末。


 そして俺はこの伝記を元の場所に戻し、王立図書館をあとにした。

 図書館を出ると、退屈そうに地面に座り込むリーズの姿があった。


「リーズ、物資の調達は済んだのか?」


「うん、調達の方は終わらしたし、騎士団も除隊してきたよ。リヒトも図書館での用事は済んだの?」


「ああ、違う! 今除隊したって言ったか!?」


「言ったよ。けどすんなりと認めてくれたんだよね! てっきり留まって欲しいって懇願されると思ったのに」


「まあ、それだけお前の代わりになる奴は幾らでもいるってことだな。しかしだ、俺にとってはリーズの代わりになるような奴は誰一人としていない」


「ふ~ん、そうなの……」


 何やらリーズは身体をもじもじさせながら赤面しているようにも見えた。

 風邪でも引いたか?

 いやでも元気そうだし、辛かったら隠さず俺に言ってくるだろう。原因がさっぱりわからない。


 そうこれが俺の出した結論だった。

  

「しかし魔王の遺体があるのは、死者の森しか考えられないよな。多分……」


「そっか! それじゃ出発しようよ。リヒトは私が守るから《危機察知ききさっち》で魔物の居場所を教えて!」

 

 リーズは満面の笑みでそう言った。

 俺はその顔を見て情けなく感じつつも心の隅ではホッとしている部分もあった。

 いづれ絶対リーズより強くなり、俺が守る立場になる。魔王を復活できたならば、さらに力が手に入る。それまでは大人しくリーズに身を任せよう。


 俺とリーズは第一目標である魔王復活を成功させるべく、城門に向かって歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る