第17話:習うより、慣れるん
「今日は新しい形を試してみるね」
日曜の朝。
ニチアサ。
いや、深い意味は無いが。
雪人とアカネは朝食の後に家事を済ませて。
またまた、例の作業。
雪人が手にする白いカタマリ。
クッションから取り出した低反発ウレタン素材。
この低反発ウレタンにカバーとなる布を被せたのがクッション。
クッションの本体とも言える素材。
圧力をかけて押しつぶしても自動的に元に戻る。
雪人は四角形のクッションを半分に切り分けて、それをさらに半分にスライスしてすでに二種類の
残っている半分の素材を、今回は。
「もったいない気もするけど、これ全部使ってひとつ作るよ」
「ほぅほぅ……して、そのココロは?」
「えっとね……前に作ったのは内側が真っ平だったけど、今度のは内側にも凹凸を付けて身体にフィットするようにしたいから」
「内側が完全に浮いてたもんね」
「うん。特に左右の脇の方にも被せる様にしようとすると、厚みを確保しないといけないから」
雪人は自分の脇の下あたりを示して形状のイメージを伝える。
「だから素材丸ごと使う必要がある、と」
「そうそう。それと、もうひとつ……」
「ん? まだ何かあるの?」
「うん。中敷きで補強したのはいいんだけど、今度は動きが制限されて違和感があるから、そこも改良したくて」
今装着している前回の作品を左右から押してみると、本来なら真ん中に寄るはずが、中敷きのためにかなり強い力で押さないといけない。
「なるほど……でも、補強しないと今度は動きすぎるんでしょ?」
「そうそう。だから、ね……こんな風に……」
雪人はノートを取り出して、そこに描かれた図をアカネに見せる。
その図を見たアカネは。
「……猫ちゃん?」
図は。
左右の上側に耳があって可愛らしいまんまるの両目もあり、猫にも見えなくはない。
「前のは円錐の部分だけを繋いでたから強度が不足したけど、今度は全体を接続して、広い『面』で繋ぐ形にしようと思ってるんだ」
「あぁ、なるほど。水滴の上の部分も含めて真ん中を繋いで……板みたいにしちゃうのね」
「そうそう。まさに『胸板』って言うくらいだしね」
などと、話をしながら、ノートに描いた図を、素材の上にサインペンで転記してゆく。
正面、横、上の三面図をそれぞれ描いて。
「先ずは外側を大まかに切って……」
ちょき、ちょき。
ハサミワークも軽やかに、でも、慎重に。
ちょきちょき、ちょっきん。
「ずいぶん慣れた感じだね」
「まぁ、三つ目だしね。習うより慣れる、だね」
習うより、慣れるん。
やれば、やるほど、上手くなる。
何事も。
「そうだね、アッチの方もずいぶん慣れて上手くなってるし、ね?」
じょきっ!
「……切りすぎた……」
「あ……」
ジト目でアカネを睨む、雪人。
まだまだ。
加工は。
つづく。
よ?
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