第15話:アルバイトで使ってみる



 この週の週末の土曜日は。


 また、作業……ではなく。


 久しぶりにアルバイト。


 ふたりの母達が経営するアパレル製造販売会社。


 『LADYレディSNOWスノウ


 主に少女向けのファッションを扱う、中小企業で地域密着ではあるが。


 その地域の少女やその親御さん達からも支持を受け、それなりの業績。


 その中のコスト削減の一環として。


 社長の息子﹅﹅を販促用のカタログや店頭POP等に起用。


 雪人の女装の発端でもあり、目的でもあり、手段ともなり。


 アルバイトとして、一応の日当も得ている。


 雪人はその精度を高めるべく、色々と工夫を凝らそうとしているが、アルバイトを放り出して作業に没頭すれば、それは本末転倒。


「じゃあ、行って来ます」


 雪人を乗せた車を運転するのは母親のひとり、美里みさと


 美里はアカネの実母ではあるが、雪人の義母でもあり。


 その美里が運転しながら助手席の雪人に問いかける。


「雪人ちゃん、今日は例のブツも使うの?」

「うん、まだ完全じゃないけど、せっかく作ったし一度現場で試してみようかと思って」


「わたしもまだ実際に着けたとこ見てないから、今日は見学して行こうかな」

「う……ちょっと恥ずかしいかもだけど……いいよ、美里ママ」


 会社に到着し、即席の撮影スタジオ替わりの会議室へ。


「あれ? 美里さん、今日は何か特別なご用でも?」


 撮影スタッフのリーダーが、雪人と一緒に現れた美里を見て驚く。


「たまには生ユキちゃん、見学しようかなーって」

「あー、わかります。最近のユキちゃん、いいですよねー」


 以前はアルバイトの写真撮影の時のみ女装していたが。


 その頃は下着は男子用で、普段から女装をす事もなかった。


 あるきっかけから、撮影時には下着も女性用を着用するようになり、さらには普段から女装するようにもなり。


 今は、さらにその女装の精度を高めるべく、と言った形で、進化し続けている。


「じゃあ、ユキちゃん。今日の最初の衣装はコレよ。準備、よろしくね」


 スタッフから手渡される衣装を手に、パーテーションで囲われた簡易の更衣室へ。その中には簡易的な化粧台もあり、化粧品も用意されている。


 下着はすでに家で女性用を着用済み。


 制作した最新の物体オブジェクトを装着し。


 今日の撮影用の衣装を着て。


 メイクも自分で行って。


 ウィッグを着ければ。


「こんな感じで、どうでしょう?」

「いいね、いいね、ユキちゃん、またよくなってるね!」

「おぉ……ユキちゃん……」


 スタッフも、絶賛。


 美里もびっくり。


 少し照れくささもあるが、内心『やった』と悦に入る。


 それは表に出さず、いつもの通りに、いつものように。


 撮影と着替えを何度か繰り返していると。


「うーーん、なんだろう? どこが違うかってよくわからないんだけど、なんかものすごく自然になった気がする……」

「なんか、ふくよかさが増した?」

「あぁ、そんな感じかなぁ?」


 撮影スタッフの声。


 秘密は明かさず。


 ただ、制作した物体オブジェクトの効果は、明らかに。



 一通りの撮影し終えて、今日のアルバイトは、終了。


 また美里の車で帰宅。



「お疲れさま、雪人くん。どうだった?」


 家に着くと、アカネが出迎えてくれる。


「うん、いい感じ、だったよ」

「うんうん。それは何より」


 ただ、雪人はまだ、完全には納得、満足はしていない。


 明日の日曜日は、また。


 新しい物体オブジェクトに、挑戦チャレンジ


 頭の中にはすでに次の工夫の構想がひらめいていて。


 今日は少しのんびりして、また、明日。


 作業を。



 つづける。




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