第13話:涙のカタチ



「ふむふむ……今度はそんな形にするんだ?」


 机の上に低反発ウレタンのカタマリを置いて、その上にサインペンで線を引いている雪人の手元を覗き込んだアカネがぽつり。


「うん。前回はまん丸でちょっと不自然だったけど、今度は……えっと……」


 下半分は円形に近いが上半分はに線で描かれた二等辺三角形のような形。


 どう呼べばいいのか?


 一瞬、考えて。


「そうそう、涙と言うか、水滴みたいな感じかな」


「あぁ、なるほど、そう言われてみれば、水滴かぁ……確かに、立ってる時は重みで全体が下がるけど、上の方が引っ張られて少し盛り上がってる部分があるもんね……」


 その左右に並んだそれぞれの水滴型の下半分の中心には十円玉程度の丸い印もあり。


「うんうん、なるほど、それっぽい感じ、かも?」


 まだ、平面に描かれただけではあるが。


「これを切って行くよ」


 前回以前は、床に胡坐をかいて作業していたが。


 足腰に負担がかかるため、今回からは、机の上と言うか、机と椅子の間で。


 ゴミ袋の口の片側をクリップで机の縁に取り付け、反対側の口をスウェットの裾にクリップで止めて、口を大きく開けた状態で。


 その口の上で、ちょきちょき、ちょきちょき。


「まずは、外周に沿って形を切り出して……」


 ちょっきん、ちょっきん、ちょき、ちょきちょき。


 大きくばっさりと、周囲の不要部分を切り取り。


「表面の形を作るんだけど……」


 前回は、全体が丸かったため、くるくると、ほぼ一定の切り方で外周を削るように切って、円錐型にしていたが。


「下半分は丸で、上はほぼ真っ直ぐに……同じ感じでいけるかな?」


「上の方を低くしないといけないから、同じ感じだとダメなんじゃない?」


「あ、そっか……難しいかなぁ……まぁ、やってみよう」


 と。


 雪人のちょきちょきが、開始され。


「左右でバランスを取りながらなのは同じなのね」

「うん、そこは間違うと左右で大きく違っちゃうかもだしね」


 今は雪人が『装着』しているが、先に作ったものも実際には左右で微妙に形が違っている。


 下半分の円形部分から切りはじめ、上半分の三角形部分を低くなるように大きく切る方法で、切り進める。


 左右の中央部分は連結されているため、切る方向が変わってしまって少し切りにくいが、どうにか。


 さらにその中央部分を低く、薄くしなければならなくなるため。


「そろそろ真ん中が柔くなってきたから、中敷き、貼り付けないとね」


「はぁい。カシュカシュやりまーす」


 スプレーのりの缶を手に、アカネが振り振り。


 雪人が部品を準備して、ふたりでベランダへ移動。


 ベランダでシューっとのりを吹き付けてから、ぺたっと貼り合わせして。


 部屋に戻って、素材の上に本を大量に積み上げる。


「これでよしっ、と。ちょっと早いけど、お昼にしようか」


「はいはーい」


 ふたりでお昼ご飯を用意して、母達と一緒にお昼ご飯。


 そんな昼食の席で。


「まだやってるの? ふたりとも」


 母から素朴な疑問。


「うん。まだちゃんとしたのが出来てないからね」


「ほんと、ウチの旦那さまは器用で凝り性だからねー」


「まぁ、カタログ写真の精度が上がるなら文句は言わないけど?」


「ほどほどに、ねぇ」


 とか、一応、釘は刺されつつも。


 昼食後、少しくつろいで、のり接着の時間をみはからい。


「そろそろいいかな?」


 大量の本を取り除いて、素材を取り出して。


「うん、しっかりくっついてる」


 中敷きで補強された部分を持って、また、ちょきちょき作業。


 だんだんと形が出来て来るが、アカネがふと気付く。


「あれ? 先端、まっ平?」


 そう、前回は円錐形の先端に残していた煙突部分が、今回は、無い。


「うん。あのやり方だと根本の部分が切りにくくなって形を整えるのが面倒だから……後で別で作ってのり付けしようかと」


「おぉ……そんなやり方が……」


「まぁ、できるかわかんないけど、やってみようかと?」


「なるほど……」


 そんな形で。


 色々と、形もやり方も変えつつ。


 雪人の女装精度向上への路は、まだまだ。



 つづく。





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