第6話:百合の母達に擬パイ制作報告
左右の円錐形の頂点付近を十円玉程度の円形にマスキングして、少し濃い茶色系のスプレー塗料を塗布。
乾燥を待って、マスキングをぺりぺりと外して行けば……。
「おぉおおおっ、それっぽーい」
妻・アカネが出来栄えを見て、感嘆。
しかし、この
「うーむ……こんな感じになるよねぇ……」
と、納得できていない模様。
「何? 何か不都合? いい感じになってると思うけど?」
「いや、下地の肌色と濃い色がハッキリと分かれちゃってるけど、実際にはもうちょっとグラデーションと言うか、境目がぼやけてる感じがするかなぁ、って」
「あー……なるほど、そう言われてみれば、そうかも?」
「まぁ、グラデーション風にする
「はぁい、行ってらっしゃぁい」
急にトイレに立つ、雪人。
残されたアカネは、
「やっぱり、サメ肌だよねぇ……もちょっとモチ肌にならないかなぁ……色を塗る前はわりといい手触りだったのに……色も着けつつ、手触りもよくできないのかなぁ……」
などと、知らないなりに、率直な考えをめぐらせてみていると。
「ただいま、っと」
「おかおか……って、それって、トイレットペーパーの芯?」
「そうそう。これを取りに行って来たの」
「なにゆえ!?」
「あぁ、えーっとね……」
マスキングテープをぴったりと貼り付けると、マスキングテープで隠された部分と隠されていない部分の境界がはっきりと塗り分けられる。
境界線をぼかしてグラデーション風にするには、完全に貼らずにテープを少し浮かせて立体的な隙間の空間を作ればよい。
「その高さを調節するのに、トイレットペーパーの芯をこうやって適当な高さで輪切りにして……」
「ふむふむ」
カッターナイフでトイレットペーパーの芯を切り取る雪人の手元を見つめるアカネ。
「やっぱり器用だねぇ……」
「まぁ、これくらいは……アカネもやってみる?」
「カッター怖いから、遠慮しておく」
「そか」
切り取った芯の輪っかが二つ。
これにマスキングテープを貼り付けて、さらにそのマスキングテープを芯の内側に少し張り出した形で残しつつ、円形に切り抜く。
それをまた
「よし、っと。これで同じ色をもう一度スプレーすれば……」
「はいはーい。カシャカシャ娘、いっきまーす」
カシャカシャ。
バーテンダー風アカネの再々登場。
カシャカシャしながらベランダへ移動して。
「お客さん、どうぞ」
「はいはい、ありがとう」
苦笑、雪人。
アカネからカクテルならぬ、茶色のスプレー缶を受け取って。
ぷしゅっ、ぷしゅっ、ぷしゅぷしゅーっ。
浮かせたマスキングの中央に、スプレーを塗布。
「よしっと、これでまた乾くまで待機、ね」
さすがに、日も暮れて。
表はアカネ色……ならぬ、茜色。いや、ならぬと言うか、読みは同じか。
「そろそろ晩御飯の支度しなくちゃねー」
「そだね。晩御飯の後にマスキング取って確認しよう」
「だねー」
そして。
家族四人。
母ふたり、子ふたり。
休日の夜の、一家だんらん。
「ねー、雪人ちゃん、最近、黙々と何やってるの?」
と、母のひとり、アカネの実母の美里から何気ない、質問。
「あー、えーっとねー」
疑パイ制作について、母にも伝えれば。
「アルバイト熱心なのはいいけど……根を詰めすぎて身体壊さないでね?」
「うん、気を付けるよ」
「でも、雪人ちゃんがいっそう女の子らしくなってカタログの写真映えも良いって、カタログ製作のスタッフからもいっそう評判よくなってるしね」
「えへへ……」
母の評価と言うか、母の会社での評価に、照れる、雪人。
いや、ユキちゃん。
母たちの会社『
ブランド『YUKI』は、カタログに載る雪人のキャラクター名でもある。
実際には、社長で雪人の実母の雪枝のYUKIなのではあるが。
副社長で、雪枝の恋人の美里は。
「そっか、ユキちゃんの女子度がさらにアップするのかぁ」
と、呑気なものではあるも。
しかし、雪人の実母、雪枝としては。
「母親としてはぁ……息子が女の子らしくってなるとぉ……ちょっと複雑よねぇ……」
「ユキちゃんは女らしいけど、脱いだら男らしいから、いいんじゃない?」
装いで女性化しているだけで、中身はれっきとした、男子。
その装いを
「まぁ、ユキちゃんとスるのも、それはそれで一興ではあるけど」
子供達にしてみれば、母ふたりが慕い合い、愛し合う姿を見て育った事もあり。
女同士にも嫌悪感は無く、むしろ、それが普通だと感じていることもあり。
雪人も女子化した状態での方が心理的な枷が少なくなる場面も多々。
「そうなると、やっぱり手触りもどうにかした方がいいのかなぁ……」
本人は、工作自体が楽しくなってきているフシもあり。
まだまだ、擬パイ制作は。
つづく。
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