永遠の扉

讃岐うどん

魔王編

第1話 裏切り


コレで、長きにわたる運命に決着が着く。

そう思って、勇者と名乗る者の旅に同行した。


この世界は、魔王によって支配されている。

恐怖、殺戮、破壊。

名を聞いただけで、声を聞いただけで全ての者が恐れ慄く存在。


そんな中で、一人の人間が立ち上がった。


名を、クエート。

後に彼は自身を勇者と名乗る事になる。


「ようやく魔王城に着いたぞ!」


パーティは5人。


パーティのリーダーであり、各地に光を灯した勇者、クエート。


パーティの紅一点、唯一の女性兼魔法使い、アリア。


パーティの脳筋枠、そのくせして職業僧侶、ルキア。


パーティの中で最も影が薄く、暗殺に特化した、アーク。


パーティの獣使い、ダマ。


以上の5人は、死ぬ気で戦った。

それぞれの個性を活かし、各地に配置された魔王の配下を倒し、此処に集う。


「なぁ、アーク」


「ん?どうしたよ」


魔王城と大地を繋ぐ橋で、勇者クエートが先を急ぐアークを止めた。


「ここまで、とっても長い旅だったな」


「あぁ、死ぬほど疲れたな」


他の3人は我先にと橋をかけている。


「……すごい、言いにくいのだが」


決して、クエートはアークと目を合わさない。


「なんだよ。俺たちの中だろ?言いたいことがあるのなら、正直に言ってくれよ」


静寂が重くのしかかる。

3人の姿は、はるか先。


「お前、


「は?」


5秒。

反射で応えたが、理解するのに10秒かかった。


「意味がわからない」


「いやな、正直に言おう。此処までは確かにお前の活躍は目を見張るものがあった。だけどな、コレから俺たちが戦うのは誰だ?世界を恐怖のどん底に陥れた魔王だぞ。お前は足手纏いだ」


言いにくいとは、何だったのか。

思いとは裏腹に、理由だけは口から雪崩のように外に流れ込む。


「……」


受け止めたのか、はたまた現実を直視できないのか。アークは言葉を失っていた。


「……ふざけんなよ」


込み上げてくる怒りの中、ようやく言葉を紡ぐことができた。


「ふざけてない。いいか?お前はもう用済みなんだ。とっとと帰ってくれ」


「名声を独占したいだけだろ」


「……そんなわけ、ないだろう」


ソレが真実なのか、はっきりとはわからない。ただ、悪意が混じっていないのは、ハッキリとしていた。


「……ッ!あっそう、好きにしろよ」


帰ろうと、元きた道を振り向く。


「……これが、最後かもしれない」


「は?」


アークには本気で意味がわからなかった。


「最後に握手をさせてくれ」


「すると思ってんのか?お前が追放させておいて」


「アーク」


名を呼び、ただ手を差し出す。


「……分かった」


折れて、思いっきり互いの掌を握った。


「なにがあろうと、俺はお前を助けない」


「あぁ、なにがあろうと、私たちは負けない」


向かう先は、平和と地獄。


捨てられた者は安息を得た。

捨てた者は修羅の地獄を得た。


怒りを胸に、後悔を胸に、ただ、歩き出す。



「良かったのですか、これで」


「あぁ、覚悟は決めていたからね」







「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」


クソデカ溜め息を、やけ酒で押し殺す。

アレから1週間経った。


あの後勇者一行は無事に、魔王を討伐した。今、ザルナルアではその話題で持ちきりである。

世界からしたら相当めでたい事だろう。

ようやく、長年縛られていた恐怖から解放されたのだ。


今、彼がいる酒場だって、今までにないぐらい盛り上がっていた。


ただ一つ、不可解なことがある。

それは、ことだ。

いや、正確に言えば勇者一行全員行方をくらませているのだが、他3人は旅が終わればそれぞれの道に行くと言っていた。

隠居生活でもしているのだろう。

だが、勇者となれば話は違う。

彼は相当の目立ちたがりだ。


──魔王を討伐したら、各地に私の像を立ててもらおう。


そんなことを、よく言いふらしていた。

そんな男が、一切表舞台に姿を現さない。


それが、小さな唯一の違和感だった。


「お客様、大丈夫ですか?そんなに飲んで、店員の私が言うのもどうかと思いますが、かなり酔っ払ってますよ」


とんとん、と優しく背中を叩く白髪の男。

この店のマスターだ。


「ぁあ?大丈夫大丈夫。呂律が回ってる限りはな。そんなことより、クエートの野郎、なんで表舞台に出てこないんだろうな」


カウンターを挟み、カクテルを振り続けているマスターが答えた。


「それは私にはさっぱりです。ですが、貴方宛にこんな手紙が」


差し出された手紙を開封すると、一枚の写真と文字が記されている紙が入っている。


「……ぁ?」


──魔王城に来い。


ただ一言、大きな文字、ソレも血で書かれた文字で書いていた。


(誰が行くかよ)


内心、そう思いながらももう片方の写真に目を配る。


「は!?」


「どうしました?」


声を荒げたアークに、気になったマスターが写真を覗き込んだ。


「!」


それは、魔王城の写真。

かつて、勇者と別れた橋のこと。


それは、屍山血河。

かつての仲間であったルキアの死体。

惨たらしく首を、四肢を切断され、首から股間にまで槍が串刺しに突き刺さっていた。

それだけに怠らず、魔王城の近くに存在した街の住民も、同じように串刺しにされている。


(なぜだ?前はこんな事になっていなかった筈……)


酔いが吹っ切れ、写真を隅々まで観察した。何を伝えたいのか、正直言えばさっぱりだったが、状況が洒落になっていないため、急がなければならないことは理解した。


「……ふざけんなよ!」


写真の裏には、同じように文字一つ。


──因果は、終わっていない。

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