3分40秒小説『たんぱん(仮称)』
「えー、本日は前回に続き、企画、開発に約二年半を掛け、この度満を持して発売する運びとなった高たんぱく質のパンの商品名について、皆様方のご意見をお伺いしたいと思います。商品の特徴については前回ご説明しているので省かせて頂きます。前回参加されて無い方は、お手元の資料でご確認下さい。では次に前回の会議で決まった方向性について企画課の森本からご説明致します。森本」
「はい。前回の会議で、たんぱく質が高いという特徴とパンを合わせて、"たんぱくパン"という案が出ました。ただし、"ゴロが良くない"、"ポップさが感じられない"といったご指摘があり、他社様の商品ではありますが、"わさビーフ"のように、商品名を省略すべきだという方向性で意見がまとまりました。つまり、"たんぱく質"という言葉に含まれている"ぱ"と"パン"という言葉に含まれている"パ"を合わせることで、商品名を略そうという案です。これについては満場一致でした。しかし問題は略し方です。普通に略すと"たんぱん"になってしまい。意味が分からないばかりか、衣服の短パンを連想させてしまいます。今回会議で決定したいのは、どういった略し方をすべきかという点です。商品名を決めるに当たって三点の指標を立てました。ホワイトボードをご覧下さい」
1.商品の特徴が消費者に伝わる
2.ポップで親しみやすい
3.呼びやすい
「これら三点を踏まえて、何かアイデアの有る方は」
「ねぇよ!」
「え?」
「どう考えても無理だろ」
「いや、そこをですね。皆様方のお知恵をお借りて」
「いや、わさビーフは"わさび"の最後の文字と"ビーフ"の最初の文字が同じだから略せたわけで、"たんぱく”と"パン"じゃあ文字が一致しないから無理だっつってんの!この方向性じゃあ何年悩んでも答えは出ないって!」
「いや、でも"ぱ"が被っているので」
「いやだから!二つの言葉に同じ文字が入っていても、最後と最初が一致しないと無理だから」
「山根さんの仰ることは分かります。でも何とかたいんです。自分なりに考えて来た案をホワイトボードに書き出します」
たんぱんぱん
たんぱぱぱん
たぱんく
ぱんたく
たんぱくん
だぱんぷ
たんぱーん
たぱたぱぱん
「もういい!止めろ!どれもお前がさっき挙げた三つの指標を満たさないじゃないか!」
「はい、残念ながら。でもこれを元に皆で意見を出し合えばきっと」
「無理だって!」
「あのー、ちょっといいですか?」
「伊藤さん、どうぞ」
「"パン"っていうワード、マストじゃ無いと思います」
「というと?」
「はい、そもそも"わさビーフ"もビーフじゃないですよね?スナック菓子ですよね?無理にパンって入れなくても良いんじゃないですかね?」
「なるほど」
「例えばですよ。"たんぱくるみ"とかですね。"プロテインゲン"みたいな方向性も有りじゃないですか」
「確かに、語尾の言葉と一致するフレーバーや原料を追加すればそれが可能ですね。皆さん、どうでしょうか?伊藤さんが今言われた方向性は?賛成の方は挙手をお願いします……満場一致、ではこの方向性で、今後進めて行きたいと思います。次回までに、具体的な商品名を考えてきて来ていただけると助かります。では、本日の会議は以上で、皆様、有り難うございました」
ホワイトボードを消す森本、"たんぱーん"を最後に残し。
「これ自信あったんだけどなぁ」
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