第2話 レプリカ魔剣、レベルアップ

 習ったわけじゃないのに、わたしは魔剣をクルクルと回し、構え直していた。


[キャラメ・Fフランベ・ルージュが、レベルアップしました。ステータスを割り振ってください]


 なんか、魔物を倒してわたしのレベルが上がったっぽい。


 こっちはステータス振りなんて、やっているヒマがないよ。


 スライムのときもそうだったけど、ゴブリンを一匹倒しただけでレベルがアップするなんて。わたしって、どんだけ魔物との戦いを避けていたか、っての。


『次が来るぞ、キャル』


「わかった!」


 続けざまに、襲ってきたゴブリンをスパスパーっと切り捨てる。


「はっ! てやあ!」


 近づいてくるゴブリンを、ダッシュ切りで斬り捨てていく。盾もなにも持っていないのに、真正面からだ。


 ゴブリンに側面から、棍棒で殴られそうになった。


 瞬時にわたしの手は、魔剣を逆手に持ち替える。敵の棍棒を、柄頭で弾き飛ばした。同時に、ゴブリンの首をはねる。


 悲鳴を上げる前に、モンスターは黒い灰と化す。


「これ、わたしがやっているの?」


 グレートソードほどのサイズがある剣を、わたしは片手で操っていた。初心者なら、両手で持つくらいの重さと分厚さなのに。わたしがやったら、自分の手を切断してしまうね。


『そうだ。お前の脳に作用して、使い方を叩き込んだ。あとは、お前の体力次第ってところだな』


 それだと、すぐに息切れしそうなんだけど?


『案ずるなって。アタシ様には身体強化魔法がセットされていている。体力増強バフもかかっている。あとは戦闘で経験を積み、体力を上げていけばいいのさ』


 それまでは、レベッカちゃん自身の戦闘技術に任せるか。気が遠くなりそうだけど。


 それ以降、何度もレベルアップの通知が来た。しかし、すべてスルー。そんなステータスポイントの割り振りをする余裕なんてない。


「どんくさそうなムチムチ女だと思ったら、予想外に強いギャ!」


 背後から、ゴブリンに斬られそうになった。


 わたしはバク転し、剣を持ったゴブリンの背後に回り込む。背中から剣を突き刺して、魔物を打倒した。


 前転をやっても、わたしはコケちゃうのに。


「ウギャー!」


 魔物が武器を落とし、灰になっていく。


『集団で襲ってくるヤツらの戦略、歩幅、間合いの取り方もちゃんと学ぶんだ。まともな戦闘経験がなければ、錬金でいい魔剣も作れないぞ』


「わかったよ!」


 レベッカちゃんの指導は、スパルタ気味だ。しかし、的確である。


 わざと攻撃を受け止めて、ゴブリンの腕力を確かめた。


 ゴブリンの力や動きは、初心者の冒険者とあまり遜色がない。

 

 それでも、力がないわたしからすれば脅威だ。


 レベッカちゃんの身体強化魔法がかかっていなかったら、腕が折れていたかも。


 レベッカちゃんの力に頼らなくて済むように、ちゃんと鍛えていかないとね。


「あ、逃げていった」


 ゴブリンたちが、一目散に散っていく。


『今の集団じゃ勝てないと思って、援軍を呼んだんだろう』


「ヤバイんじゃない?」


『いや。今のうちに、どういったビルドにしていくか考えよう』


 また、戦うのか。


 しかしこの戦いは、魔剣を持った者の宿命だ。どうせ戦わないと、このダンジョンからは脱出できない。

 

 甘んじてその宿命、受けようじゃないか。


「はああああ」


 剣を置いて、一息つく。


 ゴブリンが、ポーションをドロップしていた。


 ポーションを、グイッと飲み干す。スタミナが、ある程度回復したのを感じた。


「さて、どうしようかねえ」


 わたしがどれだけ強くなろうと、戦闘力はレベッカちゃん頼みだ。自分は、頑丈な身体にしておくか。


 武器の強化にも興味があるが、まずは自分が強くならないと。


「体力が上がったからかな? アイテムボックスの容量が、上がったね」


 これで、結構な量の荷物を持てるように。


『しかしあんたは、錬金術師を目指すんだろ? 知恵にも多少振っておいたほうがいいか?』


「ダンジョンを出たら、考えるよ。しばらくは、学術書に頼ろうかな。死んだおばあちゃんの書籍もあるし」


 当分は、虎の子の知恵袋に頼るとする。


 わたしって、人に頼りっぱなしだな。早く、一人前にならないと。


 なので、スキルは戦闘系ではなく、錬成の方に。


『援軍のお出ましだよ』


「何度来たって、同じなんだから!」


 わたしが言うのも、なんだけど。


『自信を持ちな。レベル五程度なら、並のゴブリンともタメだ』


 レベッカちゃんの言うとおり、わたしでも対応できる。


 しかし、そうも言っていられない個体が。赤い肌を持つゴブリンが、剣と盾を装備して現れる。


「ゴブリンチーフだ」


 通常のゴブリンを束ねる、ボス敵の存在らしい。


「何が来ても、やってやる!」



 わたしは、剣を振り下ろした。


 しかし、鉄製の盾に阻まれる。


 こちらがいくら攻撃しても、ジャストで受け流された。うーん、動作がきめ細かい。


『完全にタンクタイプだな。防御一辺倒だ。自分は攻撃を受けて、手下に攻撃させるタイプのようだね』


 相手は攻撃に慣れていないのか、わたしに向けての攻撃しても、スカばかり。とはいえ、こちらの攻撃も止められる。


『初期スキルを使う。【エンチャント:火炎属性】!』


 レベッカちゃんが、炎を帯びる。


『キャルッ! そのまま、ゴブリンを斬ってみな』


「うん! やあ!」


 ゴブリンに向けて、突き攻撃を仕掛けた。


 またゴブリンチーフが、盾を構える。


 その盾ごと、レベッカちゃんはゴブリンを貫いた。


 盾だけを置いて、ゴブリンチーフが灰になっていく。


「ふううううう」


 どうにか、ゴブリンの群れを撃退し終えた。


 どこからともなく、チープな音源のファンファーレが。


[魔剣【レベッカ】のレベルが上がりました]


 レベッカちゃんのステータスを見ると、二に上がっていた。


『ゴブリンチーフを倒した程度で、二も上がれば上等か』


 新しいスキルがないか、見せてもらう。


「なにもないね」


『【身体強化】が、上がるくらいだな。アンタが強くなるなら、いい』


「もっとレベッカちゃんを強化したいかな、わたしは」


 わたしは自力で、レベルが【六】になっている。


 とりあえず、体力に振っておこうかな。本当は魔法系に振って、レベッカちゃんの加工に全力を注ぎたいけど。

 わたし自身が強くならないと、魔剣にも影響が出ちゃうもんね。


 他のアイテムを漁る。ほとんどが角や爪程度で、たいしたアイテムは落ちていない。


「剣と棍棒くらいだね」


 換金するにしても、銅貨数枚程度にしかならないだろう。


『こいつも吸おう。魔力の足しにする』


 魔剣は他の装備品を吸収することで、パワーを上げられるそうだ。


「すごいね。アイテムを吸収して、自分の力にするなんて」


『たいして能力アップにはならんが、ないよりはマシだ』


 少しでも、強度や切れ味を上げていく。


『さらに敵だ。左方向に、ホーンラビット』


 巻き貝型の角を生やしたウサギが、こちらに向かって飛んできた。


「おおぅい!」


 かわいい見た目に騙されそうになったわたしは、我に返る。


 ラビットはゴブリンの爪や骨を、ガリッといただいていた。魔力の残滓を、取り込んでいるのだろう。


 そうだ。ここはダンジョン。

 敵はわたしを、ただのエサとしか思っていない。

 ましてわたしは、強力な魔剣を所持している。


 レプリカと自称するが、レベッカちゃんは高い魔力を秘めているのだ。


 魔物にとって、魔剣はごちそうに違いなかった。


「レベッカちゃんは、食べさせないよ! 取れるもんなら、取ってみろ!」


 自主的に剣を構え、ラビットを迎え撃つ。


 再びラビットが、驚異的な瞬発力でこちらに突撃してきた。


「にょわう!」


 できるだけ自力で、剣を振るう。


 だが、あっさりとかわされた。


 剣を踏み台にされるなんて。


『アタシ様を足蹴にするなんてね。覚悟はできているみたいだ』


 再びレベッカちゃんの人格が、わたしの人格を上書きする。


 再度突撃してきたラビットを、力で叩き潰した。斬るのではなく、殴打でラビットを倒す。


『逆に食ってやろう』


 ラビットの角をゲットし、レベッカちゃんの素材に。


 お肉は、わたしの胃袋に収めることに。潰したから、柔らかいお肉になっているはず。


 ナイフを使ってウサギの血を抜き、肉をさばく。骨付きで焼くと、おいしいんだよね。


『器用だな』


「母型の家系が、料理人なんだよね」


 肉や野菜の下ごしらえは、任せてもらいましょ。


 といっても、焚き火できる場所がない。火起こしの薪もないよね。ダンジョンでは。


『こういうときこそ、アタシ様よぉ』


 レベッカちゃんの刀身の上に乗せて、ラビットの肉を焼く。


 剣をバーベキューの鉄板に使うなんて、わたしくらいじゃない?


 けれど、まずはベジファースト。カットとうもろこしをパクリと。コーンは野菜じゃねえ? うるさいんです。


 いよいよ、メインだ。ホーンラビットの命を、滴る脂とともに口へ放り込む。


「やっぱり味気ない」


 ガマンしていたけど、やっぱ塩コショウだけだと物足りない。味が微妙だな。

 田舎でおいしいものを食べてきたから、こういったサバイバルメシにも、ちょっとこだわりを持ちたいわけよ。レディーとしては。


 そんなときは、これ! 田舎のばあちゃん直伝のぉ、みかんジャム!


『なんだい、それは?』


「ウチの田舎で採れたみかんを、ジャムにしたんだよ。甘酸っぱくておいしい、だけじゃないよ」


 保存も効くし、調味料にもなる!


「これを、こんがり焼いたウサギ肉にチョボっと」


 で、さらにこれ! ドン!


『なんだい、それは?』 


ひしお!」


 ばあちゃんから漬け方を教わった、発酵調味料なり!


『味が、想像できないね』


「いわば、食べるおしょうゆだね」


『しょうゆ……ガルムか。把握したよ。ウチの開発者も、ガルムは使っていたからね』 


 オレンジのジャムと食べるおしょうゆを、お肉の上で混ぜて、付け焼きすれば……できあがりっと!


「おおう、ウサギさんが見違えるほど、うまくなった!」


 これは、ライスが欲しくなる味だなあ。携帯おこげせんべいは、道中のおやつで食べてしまった。長すぎるダンジョンが悪いんだいっ。


『アタシ様に、頼ろうとしなかったな?』


 二枚目の肉を焼きながら、レベッカちゃんが私に聞いてきた。


「死んだおばあちゃんからの、指導なんだ。『道具に頼るだけのヤツは、上達しない』って」


 いい道具を選ぶのは、その道のプロを目指すかも知れない。だが集めているだけの人は、コンプ癖があるだけ。腕前が上達したいわけじゃない、と。


「道具に頼らず創意工夫をして、ちょっとくらいは自分の頭で考えなさい、ってさ」


 最初は意味がわからなかったよ。全部教わればいいじゃん、ってね。


 でも、今はよくわかる。


 レベッカちゃんにばかり、頼り切ってちゃダメだよね。


「クラスに、とんでもない人がいてさ」


『どんなヤツだい?』


「卒業前に、学校に刺さっている聖剣を抜くってイベントがあるんだけど」


『とんでもない勇者探しだね?』


「だよね。でもさ、今年始めて抜けたんだよね。しかも、女子が」


 しかし、その聖剣を見事抜いた人物がいた。ウチのクラス代表だ。


「でも、ヤバかったのはその後なんだよね」


『ソイツが、どうしたんだい?』




「聖剣をへし折ったんだよ。『必要ない』って言って」

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