第14章 ジャンボトドの歌謡ショー

 「それじゃあ、まずおいらから いっちゃおうかな」 コーラを1杯飲み干すと,紀矢(のりや)は席を立って,カラオケマシンを操作し始めました。 

 「ウェーイ❗️」 他の男の子たちが,声援で盛り上げます。 

 「うーんっとー、どれにしようかなあ…?」 

 選曲が済んで ボタンを押すと,マシンから流れてきたのは,なんと演歌。 そのキャラクターと あまりにもかけ離れていたので,スピカたちは 不思議そうな表情で 紀矢を眺めています。 

 (あっ、そうか。 石井君のことだから、たぶんものまねとか おもしろいダンスで,笑いをとるつもりだな) ふと、そう直感した男の子たち。 笑った拍子に、うっかり 食べ物を吹き出さないよう,誰に言われるでもなく おやつを中断。 

 

ところが、いざ 歌が始まると、 

「オオー・・・❗️」 

 一節聴いただけで,スピカたちのハートは,すっかり 紀矢に持っていかれてしまったのです。 

 たんたんと 読み聞かせするように始まるaメロから、bメロ、サビへ。 少しずつ盛り上げていきながら、男子会メンバーを 歌の舞台にさらっていく、ミラクルボイス。 そして、ピーンと伸びて 心地よい、ロングトーン。 

 いったい このおとぼけ顔の ジャンボトド…いいえ、紀矢君のどこから、かっこよさや 色気が にじみ出てくるのでしょう? 

 「ウオー❗️」 「ブラボー❗️」 フルコーラス歌い切ったとたん、仲間たち全員 スタンディングオベーション❗️❗️ 紀矢と同じ吹奏楽部の伊藤君は,ピューピュー❗️と 指笛で大絶賛しています。 


 「い、いやあ、どうもどうも。 それじゃ、次の方 どうぞ」 照れくさそうに ぴょこんとお辞儀して,紀矢が隣の席の山川君に マイクを渡そうとすると, 

「おれ、それより もう1曲聴きたいなあ」 

 すると、他のメンバーたちも, 

「僕も聴きたい」 「さんせ〜い‼️」 

と、のりのり。 

 「いやいや、次に順番が回ってきた時に取っておかないと、困っちまうからよ」 マイクを 山川君に差し出したまま モジモジしていると、 

 「せーの、アンコール❗️ アンコール…‼️」 スピカの合図で,ついにみんなからアンコールが飛び出しました。 

「ありがとよ。 おいらも男だ。 みんなが喜ぶんだったら,もういっちょ いかしてもらうぜ」 

「ウェーイ、待ってましたー❗️」 みんな 大喜び。 (今度は,どんな曲を 歌うんだろう?) 期待に胸が膨らみます。 

 カラオケマシンから聞こえてきたのは,幼い頃に夢中になっていた 戦隊ヒーローの主題歌。 

 「出たあ❗️」スピカが,感激のあまり 思わず椅子から立ち上がりました。 

「えっ、スピカ君も、これ知ってんの?」不思議そうな顔の男の子たち。 代表して 徹が尋ねると,「うん。 知ってるもなにも、日本の特撮ヒーローは アンバラン国内でも 放送してるよ。 アンバラン語の吹き替え付きで」 

 「おお、そんじゃ みんなも一緒に歌おうぜ❗️」

こうして 紀矢を中心に懐かしいヒーローの主題歌の 大合唱が始まりました。 古い時代のものから 最新作まで,代々の特撮物の歌がメドレーになっており,五人のテンションは,ぐんぐん上がっていきます。 即興で振りを付けてみたり,変身や 必殺技のポーズを真似たり。 普段は,笑顔で楽しそうに見ているだけの徹も、すっかり弾けて、もうのりのりです。 


「ねえ、携帯 鳴ってるよ」 

4曲目のイントロに入った時,紀矢は 隣の山川君に肩を叩かれました。 

「おっと、いけねえ。 電源切っとくの、忘れてた」

 慌てて カバンからスマホを出すと,画面に お母さんの名前が 表示されていました。 

「しょうがねえなあ,母ちゃん なんで今 かけてくるんだよ」しぶしぶ 電話に出てみると・・・。 「もしもし 紀(のり)。 あのさ、父ちゃんが 現場で足場から落っこちて,危篤なんだよ。 これから 病院行くから,すぐ帰っといで」

「何だって⁉️ ・・・わかった、そんじゃ」 

電話をカバンにしまう紀矢。 

 「大丈夫、紀矢君?」一瞬にして顔が曇った親友に,声をかける徹。 

 「それが、ちょっと緊急事態になっちまって」 そう答えて,紀矢は マイクを手に取ると,[みんな、すまねえ。 盛り上がってるとこだけど、今から帰らなくちゃならなくなっちまったんだよ」 

「ええーっ、もう帰っちゃうの?」

「まだ始まったばかりじゃん」

「もっと歌おうよ」 仲間たちが引き止めます。 

  「おいらもお名残惜しいんだよ。 だけど、今 父ちゃんが大けがで危篤だって 連絡が来て,そっちに向かわなきゃならねえんだ」 

 「え⁉️」 危篤との言葉に,絶句する 男子会メンバー。 さっきまでのお祭り騒ぎが嘘のように,空気が重たくなりました。 カラオケマシンの演奏も,どこかむなしく聞こえます。 

 「そうか。 残念だけど,石井君だって このまま残ってても、きっと歌どころじゃないだろう。 早く 親父さんのとこに 行ってやれ」 スピカがみんなを代表して、優しく言葉をかけてくれました。 

 「ごめんよ、スピカ君。 みんなにも ほんとすまねえ。 そういうわけで、お先に失礼させてもらいますんで、みんな ゆっくり おいらの分まで楽しんでくれ」 

 「今日は,ありがとう」 「また歌聞かせてね」 「気をつけてね」 

 丁寧に頭を下げてから,カバンを背負って カラオケルームを出る紀矢を、仲間たちが椅子から立ち上がって お見送りしてくれました。 


 〜つづく〜


 「ファンキー・ビケット」 次回のお話は? 

 皆様,うちのデブオが お世話になっております。 紀矢の母です。 


 うちの人が大ケガの手術で 生きるか 死ぬかって時に,紀(のり)が 腹が減ったと言い出しました。 まったくもう❗️ 今は,それどころじゃないだろうに。 

 でもさ、あたしは信じてんだよ。 父ちゃんは,若い時から 強運の持ち主なんだからね。 


 第15章 ミルクのど飴 

 どうぞお読みください。

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