町長の家

「えー、ミーアトリアが話を聞いたところ、ゴブリンたちは夜な夜な現れて畑を荒らしているらしい。群れの規模は分からないが、町民たちの見た限りだと十数体はいたそうだ」

「なるほど、結構多いですね。ですが、マシロたちなら何とかなるはず! ですよね、二人とも!」

「あーはいはい、そうですね」

「……へ? あ、ごめん、マシロちゃんなんか言った?」

「もういいです」


 膝を抱えて縮こまったマシロはベッドの端の方で横になった。


 町長に案内され、俺たちは町長が貸してくれると言った部屋にやって来ていた。一応、泊りになることを覚悟はしていたのだが、碌な準備はしてきていない。ミーアトリアとレイアは町長が貸してくれた物品の整理をしていたのだが、整理整頓の能力に欠如するマシロはぼっちと化していた。


「それはそうとして先輩、どうせ役立たずなのにどうして付いて来たんですか?」

「何故かって? お前たちを放っておくと後でつけが回ってきそうだからだ」

「つけって何ですかつけって。そんなマシロたちを信用していないみたいな言い方!」

「してないんだよ」


 当然だろうが。


「それはそうとして、今日は徹夜だぞ、寝ておけよ」

「それはそうとしないでください! マシロ、これでもこの二年間真面目にやってきました!」

「確信犯だから言ってんだよ」


 悪気が無いことくらいは知っている。だが、悪気が無いところで結果が悪い方向へと流れるからこそ信用ならないんだ。

 借金まみれだし。


 いや、借金あるやつは悪気あるなし関係なく信用しないべきだな。


「って、徹夜って言いました? 徹夜で何するんですか?」

「何ってお前、張り込みだろうが。ゴブリンは夜行性だぞ」

「あー、なるほど。それでのこのこやってきたところを惨殺してやるんですね」

「間の抜けた顔と声で恐ろしいことを言うな」


 どこでそんな言葉を覚えたのやら。


「メイゲルさん、準備出来ましたよ。一先ずご飯にして、それから仮眠と行きましょうか」

「お、助かった。ミーアトリアもありがとうな」

「いえ、当然のことをしてやったまででございます」

「まあ、それでもありがとな。じゃあ、マシロ飯の支度だ。早めに寝ないと、戦闘中に眠くなって寝首を掻かれるぞ」

「それちょっとニュアンス違くないですか?」


 マシロはあざとく小首を傾げて見せた。


 俺たちは大分早めの夕食を用意し、さっさと食べ、出撃の最終確認をしてから眠りに就くことにした。


「さて、後は寝るだけだが……ベッドをどうするか」


 俺たちの前にあるのは、二人用のベッドが二つ。町長がわざわざ他の部屋から運び込んでくれたのだが……。


「男女比を考えて欲しいよな。一対三なんだから半分には出来ないってのに」

「あ、あのう、僕は男……」

「レイアちゃん、どちらにしても初対面の町長さんじゃレイアちゃんが男の子だって分かりませんよ」

「うっ、確かにそうかも……」


 まあ、分けるなら


「俺とミーアトリア、マシロとレイアだな。よし、さっさと寝るぞ」

「えっ!? い、いや、僕がメイゲルさんと……」

「おいおい、止めて置け。幾ら俺とは言え、間違いを犯す可能性が完全にゼロというわけではない。そもそもレイアは女の子なんだから、もっと自分を大切にしたほうがいいぞ」

「ぼ、僕は女の子じゃ……」


 レイアは何か言いたげだったが、ここは強気で以て応じた。俺に憧れるレイアの気持ちを尊重してやりたいところではあるが、女の子が男と寝るなんていいこととは言えない。


「ミーアトリアはもう、男だ女だって関係じゃないから。ほら、寝るぞ」

「……主様は床で寝てください」

「何で!?」


 お、おかしいな。今まで一緒に寝た経験なんて、何度もあるんだが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る