第16話 本当はね


 夏菜子に聞いてもらったらすごい褒めてくれた。

 すごい嬉しかった。

 音痴を馬鹿にされたのは許せないけれど。


 2番を作ってない理由も我ながらいい嘘がつけたかもしれない。


 そう2番を作っていないと言うのはわざとじゃない。

 できなかった。

 難しかったんだ。


 まあ仕方ないだろう。

 あれはあれでロマンチックだと思うから。


 でもおかげさまで新しい曲を夏菜子のために作らないといけないのだ。

 ただでさえ難しかったのにもう一曲なんて。


 ここ最近の俺は夏菜子に振り回されている。

 嫌じゃないが一気に生活が充実した気がする。

 きっといいことだろう。


 最近学校に行ってもうるさい奴らばっかりで困っている。

 授業叫んでいる奴らがよく先生に怒られているが、それが余計に迷惑なのだ。

 彼らが怒られるとそいつらの近くに先生がくる。


 おかげさまで俺と先生の距離が近くなって、俺は本が読めなくなるし、作詞ができなくなる。

 授業中に別のことをしてはいけないと言う暗黙のルールはどこに需要があるのか。


 こんな暗黙ルールなくなってしまえばいいのに。


 そんなふうにみんなが愚痴っていたら誰かがつい声に出してしまったらしい。


「別の教科もやらせてあげればいいのに…。」


 誰かのこの呟きは先生の怒りを爆発させてしまったらしい。

 どうでもいいから先生の話は聞き流していた。


 とにかくこんな茶番に付き合ってはいられないのだ。

 次回のライブまでに新曲を作ってと言われているのだ。


 茶番とか言ったら先生には申し訳ないのだが、仕方がないだろう。


 何度も言うが俺にとって今の日常はとてつもなく楽しい日々となっている。

 親の勝手で俺からギターと言う趣味がなくなったものの、彼女と出会ったことで趣味が帰ってきただけではなく作詞作曲と言う新しい趣味も発見することができたのだから。

 これは親にも感謝するべきなのだろうか。


「おい橋本。聞いているのか?」

「あ、」


 最悪だ。


「お前はこの前の進路調査で進路が決まっていないと言っていたな。大丈夫なのか?」


 いつの間にこんな話になっていたんだ。

 話を聞いていなかったから面倒くさいことになっている。


「お前は何になりたいんだ。」

「音楽関係ですかね…。」


 俺は咄嗟にこう口に出してしまった。

 実際そう思っていたことも事実なのだからまあいいが。


「本当にそう思っているのか?」

「はい。」

「じゃあ後で職員室に来なさい。」


 はあああああん?

 意味わからないって。

 なんでよ。


 まあ多分諦めろって言いたいんだろうな。

 はあ。

 どんだけ俺は周りに救われないのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る