第10話 慶太くんから言ってくれるなんて


「一緒に路上ライブしよう。」


 慶太くんから言ってくれるなんて思っても見なかった。

 本当なら慶太くんが私のことをさん付けで呼んだ時に罰ゲームって言って路上ライブに参加させようかなとか。

 色々考えていたけど必要なかったらしい。


 それから私のこれから作戦に引っ掛かったのかも。

 路上ライブ本番中に『これから2人やっていきます。』とか言っちゃって。


 それに引っかかってくれたのかも。


 でもどっちにしろ嬉しい。

 慶太くんのおかげで今日は最高の路上ライブができたから。


 でも声には出さない。

 絶対慶太くんは私のおかげって言って話が終わらなくなる。

 そしたら慶太くんはお互い様って言ってこの会話を終わらせる。


 お互い様なわけがない。

 絶対私の方が救われているのだから。


「あ、もう10時だ。」

「本当だ。ここに戻ってきてもう1時間も喋ってたんだね。」

「そうだね。なんか楽しかった。」

「私も。いや私の方が楽しかった。」

「まあまあお互い様。」

「何でそんな便利な言葉で終わらせるの。」

「俺も譲れないからね。」


 それもそっか。

 でも私の方が絶対気持ち強いから。


 心の中で愚痴ってみた。


「じゃあ明日もここで会おうね。」

「あ、そうだ。俺らさまだ連絡先交換してないよね。」

「たしかに。交換しよっか。」


 連絡先を交換した。

 慶太くんのプロフィールの写真が猫になっている。


「猫飼ってるの?」

「いや。その辺散歩してた時に見つけた野良猫だよ。」

「ふーん。可愛いね。」

「だろ。」

「でも私の犬派だからな。」


 これは嘘。

 本当は猫が好きだけどなんかからかいたくなっちゃった。


「へー。俺は犬怖いんだよね。子犬ならギリギリ大丈夫。」


 優しいな。本当は絶対大っ嫌いなんだろうけど子犬ならギリギリ大丈夫って。


「ふーんそうなんだ。」

「じゃあそろそろ帰ろっか。」

「そうだね。」

「また明日。」


 彼と別れると急に寒くなった気がした。

 寒いのは嫌いだから急いで帰る。


 玄関を開けても『おかえり。』と言う声は聞こえない。

 当然だろう喧嘩してるんだし。


 帰ってくるのが遅いと怒られたけど全然辛くなかった。


 だって今日は嬉しいことの方が多かったのだから。


 寝る支度を済ませてベットに入る。

 彼からのメッセージが来ていた。


『今日はありがとう。』

『こちらこそだよ。お互い様だね。』


 今回は先に言う。

 先に言われたら負けた感じがして悲しくなるのかなってお風呂に入ってたら思った。


『そうだね。』

『おやすみ。』


 私がおやすみって送った数秒後におやすみのスタンプが返ってきた。


 彼といて私は明るくなれた気がする。


 明日もいい日になあれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る