第6話 家に帰るに決まってる
「どうしよう……すること無くなっちゃった……」
公園の正門目指してトボトボ歩き、何気なく空を見上げる。
「そう言えば、こんな風に公園に来るのって何年ぶりだろう?」
教育熱心な両親の期待に添えず、一流大学に入れなかった私は当然一流企業に入社など出来なかった。
卒業間近にようやく就職先が見つかったけれど、そこは絵に描いたような典型的なブラック企業。
そこで社畜の如き働き詰めだった私には、公園に来るような機会などほぼ無かった。
「まさか、こんな形で公園に来ることになるとは思わなかったな」
婚約者の待ち合わせで公園に足を運んで見れば、まさかの女連れなのだから。
「……することもないし、帰ろう」
恐らく両親は、こうなる結果が分かり切っていたのだ。だから、尋ねたのだろう。
『ステラ。今日は婚約者のエイドリアンと会う約束を交わしているが、会うのか?』
「婚約者と不仲だって分かっているのなら、初めから教えてくれていればいいのに……」
だったら、わざわざイヤな思いをしてまでこんな場所まで出向く必要は無かったのだから。
ブツブツ文句を言いながら正門をくぐり抜けた時――
「あの……ステラお嬢様」
突然声をかけられた。
「な、何!?」
驚いて声の方を振り向くと、私をここまで乗せてくれた男性御者の姿があった。
「も、申し訳ございません! まさか驚かれるとは思わず、いきなり声をかけてしまいました! 本当に申し訳ございません!」
御者は恐縮したかのように、何度もペコペコと謝ってくる。
「い、いえ。そんなに謝らなくて大丈夫ですから……」
明らかに私よりも年長者の男性に謝られるのに慣れていない。すると私の言葉遣いのせいか、ますます御者は謝ってくる。
「そんな! ど、どうか私のような目下の者に敬語を使わないで下さい! お願いします!」
なるほど……やはりステラというこの身体の持ち主、相当傲慢な性格だったのだろう。なら、少しでも彼女らしく振る舞ったほうが良いのだろうか?
「分かったわ。それなら敬語はもう使わない。それより、何故ここにいるの? 帰っていいと伝えたはずなのに」
「あの……旦那様の言いつけだったからです……」
「お父様の?」
「はい、恐らくエイドリアン様と待ち合わせしてもすぐに終わりになるだろうから、待機しているように命じられていたのです」
「そうだったんだ……」
やっぱりこうなることはお見通しだったというわけだ。それなら何しに私はここへ来たのだろう?
「ステラお嬢様……それで、どうなさいますか?」
上目遣いで尋ねてくる御者。どうするも何も……。
「することも無いし。帰るわ」
「かしこまりました。では、どちらに行かれますか?」
はい? 今、彼は何と言った?
「帰るって……家に帰るに決まっているじゃない」
「あ! そ、そうでしたか! いつものステラお嬢様なら、こういう日はヤケになって爆買い……いえ! お買い物を楽しまれてから帰宅されていますけど?」
今、ヤケになって爆買いと言ったよね? でも、まあそんなことはどうでもいい。僅か20代で人生に疲れている私は買い物よりもまずは家に帰って休みたい。
「買い物はいいから、家に送ってもらえる?」
「はい! かしこまりました!」
扉を開けてもらうと、私は早速乗り込んだ。そして馬車はゆっくりと走り始めた。
ガラガラガラガラ……
馬車が走り始めると、急激な眠気が襲ってきた。
「ふわぁああああ……眠い……何でこんなに眠い……んだろう」
駄目だ、眠くて瞼も開けるのが辛い。……家に到着するまで寝ることにしよう。
目を閉じると、私は深い眠りに就いた。
そして……不思議な夢を見る――
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