多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈

序章 私のこと

――7時


ジリジリジリジリ……!!


大きなゼンマイ式目覚まし時計が部屋に鳴り響く。


「……朝か……」


薄っすら目を開けると、高い天井が見える。


「やっぱりこの世界は夢じゃないんだ……」


憂鬱な気分でベッドから起き上がると、室内履きに履き替える。まるでスイートルームのような豪華な部屋をペタペタ歩き、大型の姿見の前に立つ。



背中まで届くストロベリーブロンドの長い髪に、ブルーアイの目も覚めるような美女が写っている。それが今の私。

ただ、きつそうな目元は性格がネジ曲がっている印象を与えている。


「いつまでたっても、この顔には慣れないな……。とんでもない美少女ではあるけれど、こんなに目つきが悪ければ魅力も半減しちゃってるじゃない」


そしてこの身体に憑依してしまった私はため息をついた――



****


 私は、大学を卒業して社会人1年目の社畜OLだった。 就職試験に何十社も落ち、ようやく入れた会社が絵に書いたかのようなブラック企業。


残業、休日出勤は当たり前。深夜に帰宅しても資料作りに明け暮れる日々。

挙げ句に薄給。光熱費、家賃を支払えば殆ど手元にお金は残らない。


当然食費を削るしか無かった。



あの日――


23日間の連続勤務を終えた私は疲れた身体に鞭打って、ようやく1DK の賃貸マンションに帰宅した。


「た、ただいま……」


疲れた身体に鞭打って、シャワーを浴びてパジャマに着替えて時計を見た。


「嘘……もう、2時を過ぎているなんて……!」


7時には家を出なければ会社を遅刻してしまう。私はまだ食事も取っていないのに!


「駄目だ……食事なんてしている場合じゃない……早く寝なくちゃ」


どのみち、疲れすぎていて食事する気にもなれない。部屋の明かりを消すと、ベッドに潜り込んで目を閉じた。


……どうしよう。洗濯だって、もう3日分もたまっているのに……


けれど、とてもではないが洗濯する気力など私には残されていなかった。


「もういい……今度の土曜日は久しぶりに休みが取れるから……その日に洗濯はまとめてしよう……」


そしてそのまま私は、まるで泥のように眠りについた――



*****



「それで、目が覚めるとこの身体に入っていたんだよね……」


鏡に手を置き、再びため息をつく。

だけど、あの時は本当に驚いた。狭い部屋に寝心地の悪い安物ベッドで寝たはずが、目覚めるとこんなに立派な部屋に変わっているのだから。


始めは自分の置かれた状況にわけが分からず、悲鳴を上げてしまった。

すると突然部屋の扉が開かれ大勢の人々が駆けつけてきた。さらに驚いた私は再び叫び……その後は大騒ぎになったのだ。



「あの時は、本当に驚いたな……」


あの時から既に5日が経過している。


けれども、私は未だにこの身体に憑依したままだった――




 






















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