第31話いよいよ決勝戦。

 時間制限の中、樹君は紬ちゃんに投げる事が出来なかった。三対二になってしまった。こうして僕達のチームは負けたのだ。肩を落とす新葉。だったが、


「ドンマイ」


 樹に肩を軽く叩かれる。


「あんた結構やるんだね。だけど、私に勝とうなんてまだまだ先よ。私に勝ちたかったら、もっと体を鍛えなさい。威力はまだまだ全然だけど、あなたにはセンスがあるわ。樹にも無いセンスがね。そう言った意味じゃあ。あんたの方が上かもね。良くあそこで樹君があんたに譲ったのが不思議だったけど、あんたと戦っている内にそれが良く分かったわ。今後またやりましょう。この次が楽しみだわ。良い勝負になりそう」


 紬ちゃんもそう言ってくれた。負けた僕達は紬ちゃん達チームを応援する事となった。悔しい筈の樹君だったが、意外にも冷静になっている。時間切れをしていなければ、あるいは勝っていただろう。樹君は強いんだから、あの時何故、樹君は僕を中に誘ってくれたんだろう。僕は元々ドッジボールは苦手だ。逃げるだけで精一杯の筈だ。最後、あの時、僕は逃げるのに徹していればこんな事にはなっていない筈だ。僕が外野から朝陽君をサポートして居れば、朝陽君だって当たらなかった筈だ。僕が紬ちゃんのボールを取ろうとし無ければ、当たりはしなかった筈だ。ああ、折角樹君が僕を信じて中に誘ってくれたのに僕は余りにも無力だ。ああ、駄目だ。僕は負けなかった筈の選択肢ばかりを考えている。それでも僕はチャレンジしたかったんだ。手を伸ばせば、紬ちゃんのボールを取れると思った。強烈だった。手を伸ばせば僕も活躍出来ると思ったんだ。ドッジボールを好きになると、渚ちゃんにカッコイイ所を見せたかっただけかもしれない。だけど、僕は負けた。僕達のチームは負けたのだ。それでも樹君は僕を責めなかった。ドンマイと言ってくれたんだ。やはり、樹君は優しい子だった。


 大翔君だけが薄笑いを浮かべていた。



 いよいよ決勝戦だ。負けた僕達の分まで紬ちゃん達チームには頑張って欲しいと願うばかりの新葉だった。

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