第30話 与えられたミッション



 さて、翌日の昼休み。

 生徒会長こと秋葉さんをサポートするために、昼食を食べてから生徒会室に集まった。


「手伝ってくれてありがとう、私一人じゃ何にもできなくて……」

「いえ、大丈夫です。元はと言えば彼のせいでもあるので」


 俺の隣に立つ涼夏にじろりと横目で見られる。とんでもない正論なので俺は何も言わずに小さくなるだけに留めておいた。


「元はと言えば助けてくれる友達がいない私のせいでもあるから……」


 そう言ったのは悲しそうな表情の秋葉さん。その言葉は俺たちにも効くからやめてくれ。みると、心なしか涼夏の表情も暗い。俺たちは運命共同体だぜベイベー。


 そんなことより、生徒会役員を集めるという目的のために集められた俺たちだが、正直何をすればいいのか曖昧で全くわからない。

 そのことを秋葉さんに言うと、そうだよねと頷かれた。


「榎本くんと二宮さんには、同級生の中で生徒会に入ってくれる子がいるかどうかを聞いてほしいの」

「同級生に?」

「うん……私は人見知りだから、年下に話すのが苦手で……」


 だから一年生の教室で半べそかきながら俺を待っていたのか。そしてそんな人見知りな秋葉さんを教室に押しかけてくるまでに精神をすり減らさせてしまった過去の俺の罪深さが日に日に増している。


「全員に聞くんすか?」

「一日で全員は無理だから、少しずつとかでお願い」


 その言葉に俺と涼夏は顔を合わせる。方法を聞いてもあまりピンとこない説明だった。

 涼夏も同じことを思っていたのか、おずおずと秋葉さんに尋ねた。


「生徒会役員になるための最低条件とかってあるんですか? 何もなければ多分多くの生徒が入りたがると思うんですけど……」

「どうなんだろう……」


 わかってないんかい。

 困った表情を浮かべる秋葉さん。この人の表情筋は困った顔で固定されているんだろうかと思うくらいにいつも困っているような気がするぞ。


「私も同じ学年の知り合いの子たちに聞いてみてはいるんだけど、やりたがる子が全然いないの」

「それはまたなんでですか? 生徒会なんて入りたがる子もいっぱいいると思うんですけど……」

「な、なんでだろう……それは私にもわかんない」

「じゃあ、条件は何もない感じですか?」

「……責任感があって、放課後時間があって、作業がある程度できて、二足歩行で、きちんと会話ができる人だったらもう誰でもいいかな……」


 疲れ果てているのか表情が死んでいる秋葉さん。生徒会長も大変そうだ。

 しかし、生徒会役員になるための条件低すぎない? そんなん誰でも出来るだろ。


「そんな条件じゃ俺でも生徒会役員になれるじゃないですか!」


 俺のその高らかな声に対し、呆れた目でこちらをみる涼夏。


「放課後時間があると会話が出来る以外満たしてないじゃない」

「涼夏の中の俺って四足歩行なの?」

「そうね、会話が出来るもあんまり満たしてないかも……」

「四足歩行で会話ができないけど放課後時間が有り余ってるモンスターじゃん」

「君たち、仲いいね」


 俺たちのじゃれ合いに、秋葉さんがくすりと微笑む。


「それはもうとんでもなく」


 嘘みたいだろ……数週間前まで嫌われてたんだぜ、俺……。

 先輩の前ではしゃいでいた自分が恥ずかしかったのか、涼夏はこほんと咳ばらいをして、話を元に戻した。


「じゃあ、今はとりあえず手当たり次第に聞いていけばいいんですね?」

「うん、昼休みの時間取っちゃってごめんなさい」

「大丈夫です。俺たち時間あったとしても一緒に駄弁る友達いないんで」

「あ、うん……なんか、ごめん」

「余計に謝らせてどうするのよ」


 こつんと肘でわき腹をつつかれる。くすぐったさと幸福感が体中を駆け巡る感覚に身を震わせながら俺は目を閉じた。

 今すぐわき腹の皮剥いで標本にしたいな~。タイトルは「青春の一コマ」だな。


「じゃあ、よろしくね。私は二年生を中心に聞いてみるから」


 手を振って生徒会室から出ていく秋葉さん。残された俺たちは、言葉もなく生徒会室を出る。

 そして一年生のクラスがある階まで行こうとした辺りで俺は気づいてしまった。


 あれ、これってもしかして、生徒会役員を探していくという名目で行われる校内デートなのでは? 

 だって涼夏と俺が二人並んで校内を歩き回るんでしょ? こんなん誰が見ても校内デートやんけ! 




 …………と、今までの俺ならそんな風にぬか喜びをした後その予想が外れていたが、正直もうそんなものに騙されるほど間抜けではない。

 ていうか、普通に考えて二人で教室には入らないだろ。


 というわけで、階段を下りながら涼夏に話しかける。


「じゃあ、分担してさっさとニクラス分終わらせようぜ。涼夏どのクラス行く?」

「え?」

「え?」



 驚いたような涼夏の声に思わず振り向くと、目を丸くしてこちらを見る彼女と目が合った。


「……どしたん?」

「あ、いや、その……なんでもないわ」


 妙に気まずい空気が流れる。廊下を歩く生徒たちの喧騒が俺たちの静寂を余計に大きくする。


「じゃあ私、2組の人たちに聞いてくるから……」


 そう言いながら階段を下りて行った涼夏は、どこかしょんぼりしているように見えた。

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