第15話 婚約

「ユヴィリティ殿下、私あなたと婚約しても構いませんわ」


「……え?」


 本日もいつも通り、ユヴィリティ殿下と紅茶を嗜んでいますわ。

 いつも通りの昼下がり、いつも通りの中庭で。

 

 そんな時に、いつも通りではない発言をしました。

 それは────


「それは……えっと……」


「ヴィルディ第二王子から婚約破棄を告げられたときから、ずっと考えていたんです」


「な、何をだい……?」


「私を愛してくれる、殿方についてです」


 胸に手を翳します。


「私は婚約破棄を告げられた、傷物令嬢です。こんな女を愛してくれる殿方なんて、存在しないと思っていました。そして同時に、そのことに対して怯えていたんです」


「怯える……?」


「誰も愛してくれないのは、つらいことです。私は物語の世界でしか孤独の怖さを知りませんが、それはきっと……私の想像よりもずっと恐ろしいことだと思います」


「……そうだね」


「ですので、私が殿下に求婚をされたことは……奇跡なのだと思います」


 ニコリと、微笑みます。


「私のような傷物令嬢を愛してくれるのは、きっとこれから先も殿下以外はいないでしょう」


「それは……」


「最初こそ不信感が強かったですけれど、こうして幾度も邂逅する内に……だんだんとその行為が本物なのだと理解できるようになりました」


「……」


「ですので……だんだんと、私も好きになっていったのです」


「……それは何よりだ」


「……殿下、返事を聞かせてくれますか?」


 殿下は重い口を開きます。


「もちろん、僕も嬉しいよ」


「それは──」


「僕の方からも、頼むね。僕と婚約してください」


「ええ、もちろんです」


 笑顔がこぼれ落ちます。

 やはり、孤独に死ぬよりも……誰かに愛される人生の方が、素晴らしいですね。


「でも、今すぐは公表をしないよ」


「どうしてですか?」


「明後日、モモとヴィルディの結婚式が行われるんだ」


「え、そうなのですか?」


 モモからは何も聞かされていませんが。


「その時に、僕はキミとの婚約発表をしようと思う」


「それは……どうして?」


「……とても、面白いことが起きるからね」


「? それはモモとヴィルディ殿下に関連することですか?」


「まぁ、楽しみにしておいてよ。とっても面白くて、愉快なことが起きるんだ。調子に乗りすぎた2人に対する、天誅てんちゅうが下されるかも知れないね」


「そう……ですか?」


 何かよくわかりませんが、何はともあれ。

 私は再度、婚約することができました。

 これで……孤独な一生を歩む必要はありませんわね。

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