夕
KoMumi
記憶
僕は放課後のチャイムで目を覚ました。
「今日はよく寝てたわね」
純粋な黒い瞳が僕を覗いたような気がした。
腕で覆っていた顔を上げると、黒い瞳と目が合う。
「夕か」
黒木夕は、僕の幼馴染だ。
漆黒の長い髪に陶器のような白い肌は、まるで人形のようである。
僕は帰り支度をしながら、僕の席の前で仁王立ちをしている幼馴染に用件を聞いた。
「今日、何の日か覚えてない訳じゃないわよね?」
何の日だ?
記憶にない僕が沈黙を続けていると、夕が大きなため息をはいた。
「本当に最低な幼馴染ね…今日はー」
僕は目を覚ました。
この夢を見る日は決まって一年に一回であり、同じ日だった。
「あれから四年経つのか」
今日ニ月ニ日は、黒木夕の命日である。
僕は大学生になっていた。
夕が亡くなってから毎年同じ日に同じ夢をみるようになった。
あの日、僕と夕は何者かに襲われた。
目が覚めると…
僕は壁にもたれ傷だらけで、腹にはナイフが刺さっていた。
「僕…生きてたんだ」
朦朧とした頭で周りを見渡すと誰もいなかった。夕を除いて。
ナイフは抜かない方が良いと本で読んだことがあったから、僕は抜かないまま薄暗いコンクリートの壁に手をつきながら何とか立つと、目の前に白いベッドがあった。
ベッドの上には、夕が眠っていた。
「夕!!!」
腹のナイフがこれ以上刺さらないように、持ってきていたタオルで包みながら急いで夕のもとに向かうと僕は目を疑った。
華やかなドレスを身に纏い、化粧をし、両手にストックの花が握られた夕がそこにはいた。
「夕!!!起きろ!!!何して…」
彼女の目が覚めることはなかった。
そして、僕の記憶はそこからない。
次に目を覚ましたのは病院のベッドだった。
僕は、警察からこれは今騒ぎになっている殺人鬼の仕業である事、まだ犯人は捕まっていない事を告げられた。
夕が死んだ事も告げられた。
だけど、僕は不思議と驚く事はなかった。
時間が経つにつれて、彼女の死を感じていった。
あの時、何が起こったのか自分でも分からなかった。
僕の隣で楽しそうにアイドルの話をしていた黒木夕は、死んだんだ。
どうして夕は殺されたのだろう。
犯人は四年経った今でも捕まっていない。
僕は、自分で事件の真相に辿り着くべく動く事にした。
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