異世界旅行記、二人きり

@suto07

第1話

模範的な社会人である桜井晴斗はバスから降りて目の前にある町役場に勤めている。

22歳で大学を卒業後、このかろうじて地元チェーンが出店しているような田舎の町役場に就職し今年で五年目、運よく専攻であった地理に関係なくはない観光課で地元商店のおじいさんの話を聞いている。


午前休みを取って午後からの出勤、12時35分着で一人で市役所前で降りる。


いつものバス停がない。大半の東京人が「たからさがしのなつやすみ」でしか生涯目にすることがないような木組にトタン板を張り付けただけのぼろバス停はなく、

目の前に広がるのは地平線まで広がる草原、そして足元もひび割れたアスファルトではない。ガッタガタの石畳だ。ひび割れたアスファルトのほうがましだ。


とっさに降りる所を間違えたと後ろを振り返るがバスはなくあるのは草原だ。


「こんなの北海道でしか見たことねえ」


そもそも勤めていたのは中国地方だし、田舎の路線バスが北海道に行くわけもない。

「草原に石畳」の時点で日本でもないし、作るのに手間のかかる石畳の道を草原に敷いている場所など海外にあるのかも怪しい。


「少なくとも北海道ではないわ」


背後から同世代だろう女の声が聞こえる。

振り向くとチュニックに皮のカバンといいうなんともぎこちないファッションの20頃の女性が立っていた。


「じゃあ、ここはどこなんです?突然ここに放り出されて困っているんですが」


「草原よ」


「いや、市町村名とか」


「ないわ」


「ない!?そんなわけ


「あるわよ。異世界だもの」


異世界。文学的空想における異世界alternate (other) worldと数学の次元概念dimensionとを合成した造語で,正しくは高次元的に存在可能な別世界とでもいうべきもの。(世界大百科事典(旧版)内の異世界の言及)


「国民皆保険」


「ないわ。そもそもこの世界はそちらの世界ほど法や倫理が発達していないわ」


「警察消防救急食品衛生法刑法機械工学電気工学電子工学」


「ないわ。法や倫理が発達してないのに何であると思ったのよ」


「君は日本人か?」


「半分。日本人としての記憶はあるけれど今はこの世界を生きる変わり者の女よ」


「名前は?」


「レディーに名を問うのならあなたから名乗るべきではなくって?」


「これは失礼した。私は桜井晴斗だ。レディーということは特権階級か」


「ただのエレナよ。ただ言ってみたかっただけ。」


「なるほど。状況はおおよそ分かった。最後になぜ君と私はここにいてなぜ君は私の問いに答えたんだ?」


エレナは少し悩むそぶりを見せる。


「たまになぜか座標ごと異世界から物体が流れてくる。そちらの世界でも同じことは起きていた。そして私はそれを感知するすべを持っているだけ」


「なるほどつまるところ君は異世界の物資を集めているわけだな。何をするつもりなんだ?」


「あなたは最後と言った。これ以上は答えるつもりはないわ」


何やら聞かないほうがいいことだったようだ。

あまり気にしていないようで彼女は続ける。


「あなた、これからどうするの?」


「さあね。別段帰る理由もないけど帰る方法でも探そうかね」


「そ、じゃあ私の旅についてくる?荷物持ちはしてもらうけど世界を渡れる何かが流れてくるかもしれないわよ」


「女の一人旅に男がついて回るのはまずくないか?」


「世界を渡るテクノロジーを持っている者が作った武装を所有している可能性を考慮できない人間はここに来た瞬間わめき始めるわ」


その武力の庇護下は大変魅力的だな


「ぜひともついていかせてください姉御!」


「そう。じゃあまずそれやめなさい。武装をちらつかせた瞬間下手に出るの下っ端みたいでなんかいやよ」


「へえ、あっしは小役人なもんで」


「それをやめなさい」


こうして俺とエレナの旅が始まった。

エレナは話していてつい軽口をたたいてしまう、昔からの友人のように感じた。よき友として彼女とは末永く交流したいものだ。(鞄を見ながら)

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