【短編集】この味噌汁はしょっぱすぎる【※カクコン版】
黒星★チーコ
「あなたの頭の中」編(シリアス)
「しょっぱ……」
幸宏が、顔をしかめて小さく呟く。
こんな小さな事ですら、私の心を、頭の中を、ギリギリと締め上げているなんて理解できないのだろう。
私は箸をパチリと置いて冷たく言った。
「あら、お口に合わなくて悪かったわね。私の作るお味噌汁より、
「そんな……そういう意味じゃ」
曖昧な彼の表情に、私の憎しみは急上昇する。
さっきだって玄関で「ただいま」と言った顔に『本当はこの家に帰ってきたくなかった』と書いてあった。
愛憎とはよく言ったものだ。あれだけ愛したこの
「さっさとあの女の所へ行きなさいよ!慰謝料は払ってよ。それとこの家も貰うからね」
「えっ!!」
慰謝料の話が出た途端、愛想笑いが一気にその顔から引き剥がされて明らかに青くなった。おろおろしているのを見て、何を今さらと鼻で笑う。
堂々と外に女を作っておいて離婚や慰謝料は嫌だとでも言う気なのか。何を考えているのか彼の頭の中がさっぱり理解できない。
こちらはこれから女手ひとつで子供を育てないといけないのだから、養育費代わりに家も貰って当然というものだ。
私は可愛いゆきちゃんと二人で生きていく。彼に不自由な思いをさせないためにも要求は通さなくては。
……そういえば、ゆきちゃんはどこに行ったのだろう。
リリリリン
男の電話が鳴る。
「ちょっとごめん。……あー、春奈?うん。今夕食……」
男はこちらを見ながら電話に出て、気まずそうに廊下に出ていく。
私も会話を聞きたくもないのでしたいようにさせていた。
しかし、いつの間に女が変わったのだろう。外に作った女はてっきり『あやこ』という名前だと思っていたが。何人もいるのだとしたら本当にひどい男だ。
……あれ、そういえばいつの間に夫は携帯電話を持つようになったのか?凄くお金がかかる筈なのに。
ギリギリと私の頭の中が締め上げられる。何かがおかしい。でも理解できない……。
……廊下から聞こえてくるゆきちゃんの声は、あの男にそっくりだった。
「うん、今日はこっちに泊まるわ。母さんの状態、思ったより酷かった。味噌汁もすごくしょっぱいし、俺のことを離婚した父さんだと思って会話してるみたいだ。
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