1. 初日 [1]
「明らかに… 洞窟の中だったはずなのに。」
ぼんやりと立って周りを見回すが、ただ見慣れない風景だ。
平和な雰囲気が漂っている。
「ここは…まさに別の世界だ。」
「いや…ここに住んでいる人たちは、私が異世界から来た人だと思っているのだろうか?」
あっけに取られて足がすぐに動かない。
暖かい日差しとさえずる鳥の鳴き声に魅了され、自然に気持ちが落ち着く。
ちょうどその時、後ろから騒がしいクラクションの音を立てながら何かが素早く近づいてくる。
大きな車輪がついており、後ろの穴からは真っ黒な煙を噴き出す。
私はびっくりして小刻みに横に下がる。
「馬が引かない馬車かな? 不思議だね。」
私はやっと両頬をそっとつねって、気を引き締める。
「よし!じっとしているだけでは解決できない。とりあえず家に帰って荷物を解かないと!」
村の見物も兼ねてゆっくり歩いていると、ふと不吉な気分になる。
「おかしいんだけど… なんだかずっと同じところをうろうろしているような気がする。」
こちらの世界に来て最初に直面する危機だと直感する。
周辺の建物もすべて初めて見る様式だが、全部似ていてさらに混乱する。 まるで同じ木でびっしりと生い茂っている森の中をさまよう気分だ。
「どうして全部こんな形の建物しかないの? 地図を見ると確かに近くのようだけど。」
私が顔をしかめて頭を掻いて、すぐ向かい側から誰かが歩いてくるのを発見する。
表情が一瞬で明るくなる。
「ちょうど登場してくれた私の救世主!やっぱり窮すれば通ず! 今すぐ道を聞いてみないと。」
私は名前さえ知らない見知らぬ人に用心深く近づき、口をもぐもぐさせる。
「あの…」
彼も当惑した表情を浮かべながら、首をかしげる。
「どうしたんですか?」
「実は… この近くに引っ越してきたのですが、道に迷ってしまって。家を探しているのですが… もしかして、ここにどうやって行くかご存知ですか?」
私は家の位置が表示された地図を彼に見せる。
彼はちらりと見てにっこり笑って手振りをする。
「そうなんですか? よろしければご案内いたします。」
「本当に? ありがとうございます。」
「同じ町に住んでいる隣人として、これくらいは手伝わないと。」
私は安堵のため息をつきながら明るい表情を浮かべる。
「よかったです。 日が暮れるまでずっとさまよっていたらどうしようと思ったんです。」
私は彼の後をついてしばらく歩く。
「ところで、この町に引っ越してきたきっかけは何ですか?」
「それが。」
どうしても事実を言えない。敵国の王子と結婚するのを避けようと異世界からここに来たとしても、きっと信じてもらえないだろう。変な人扱いされるのは明らかだ。
当惑した質問に何と言えばいいのか分からず、ためらってばかりいる。
彼が先に足を止めて心配そうな表情をしながら問い返す。
「あの… 何かあったんですか?」
「あ… それが… だから… 実は…学校のせいです。」と驚きながら、彼の視線を避けて答える。
「学校?」
「はい。この近くの高校に転校してくることになっているんですよ。」
「おお… そうなんですね. 興味深いですね。」
「そうですか? 学校のために住んでいるところを移すのはよくあることじゃないですか?」
「そうなんですけれども、こういうことは珍しいですよね。」
「どういう意味ですか?」
予期せぬ返事に首をかしげる。
「すぐにお分かりになると思います。」
私は確かに好意を寄せてくれる人に、なぜか気まずい思いをして眉をひそめる。
どういう意味なのか悩みながら頭の中が複雑になる。
奇妙な混乱に襲われ、何も言わずに彼の後について行くと、いつの間にか空は夕焼けで赤く染まっている。
彼はある家の前で足を止めて、私に向かってにっこりと微笑む。
「ここですね。」
私は頭を下げて感謝の言葉を言う。
「案内してくださってありがとうございます。 助けがなかったら、日が暮れるまで家に帰れなかったでしょう。」
彼は少し照れくさそうに笑いながら頭を掻く。
「とんでもない… この程度は何でもありません。」
もしお時間があれば、お入りになってコーヒーでも一杯いかがでしょうか? 大したおもてなしはありませんが、簡単なお礼でもしたいのですが。」
「私は大丈夫です。 そんなに大したことでもないんですよ。 いつでも問題が生じたらお手伝いします。」
「あ… 本当にそうでしたら… 残念ですね。」
「はい!引っ越しおめでとうございます! これから良いことばかりありますように! また会いましょう!」
彼が短い挨拶を残して立ち去ると、私は大いに期待を抱いて家の中に入ってくる。
周りを一度見回すが、暗くて何も見えない。
「暗すぎるんだけど。」
「電灯をつけることくらいはもう知っているよ。」
私は昨日読んだ文書に書かれた内容をじっくりと振り返り、暗闇の中で壁を触りながら突き出たスイッチに気づく。
「よし、これだ。」
スイッチを押すとカチッと音とともに部屋の中が一気に明るくなる。
「わあ!」
やっと安心できるという気がして、口から自然に幸せの嘆声が沸き起こる。
「こちらの世界にもあんないい方がいるんだ。 助けてもらえたのが幸いだ。」
すぐに荷物を下ろして大きくため息をつく。
「もしあの方が王子だったらどうする?」
ふとすれ違った思いで背筋に鳥肌が立つ。
「親切に感謝して思わずほっとしたのに… 実は私を連れて行こうと近づいた人なら。」
ちょうどその時、通信用リンクパールが鳴る。
「このリンクパールは非常連絡用なのに… 何かあったのかな?」
私は一度気を取り直してから連絡を受ける。
「今日最初の日でしたが、いかがでしたか?」
「もちろん、とても良かったよ。 ところで、こんなにすぐ連絡してもいいの? 性格もせっかちだね。 まさに昨夜最後の言葉を伝えると言ったじゃないか? 別れの哀切な雰囲気が少し壊れるというか。」
「そんなのんきな声が出るのを見ると、無事のようですね。 良かったです. 実は私もあえてこのようにしないつもりでしたが、それでもしなければならないようで。」
「何かあったの?」
「今のところ何もありませんでした。」
「まだ。」
「ただ今から何か起こりそうなので連絡しました。」
「そうだろうね。 もう私もそれなりに覚悟をしたよ。」
「そちらの世界にバルシア帝国の王子様が渡ったというニュースです。」
「それは本当?」
「はい、これはどうも予想できなかったようですね。 状況が少し面白くなったようです。」
「この状況を今楽しんでるの?」
「バルシア帝国が、お姫様が脱出したという知らせを聞いて、激怒してすぐに軍隊を動員してお姫様を捕まえに行くと言ったそうです。」
「軍隊?」
びっくりして鳥肌が立つ。
「しかし… 幸いにもそうではありませんでした。 それはそちらの世界に混乱をもたらすだけでなく、大きな戦争に発展する可能性もあったため、諦めたようです。」
「そうなんだ… よかったね。」
安堵のため息をつく。
「そして王子様が自分の結婚相手を直接説得して連れてくると切実に頼んだそうです。 これが決定的な部分だと思います。」
「え?」
「そのため、王子様はお姫様だけを連れてこようとその世界に行きました。」
「そうなんだ…」
「自分がお姫様の真の相手としてふさわしいと直接認めてもらいたいと言ったそうです。 本気かどうかはわかりません。 何か別の思惑があるかもしれません。」
「いや、じゃあルチアはどうなるの?」
「当分はこちらの世界で私がお姫様を演じると思います。」
「私を演じるの?」
「内心不安ではありますが、長い間お姫様をすぐそばでお迎えしたので、皆さん信じてくれそうだと言っていました。 お姫様をよく知っており、真似する自信がありますからね。 これはルチア皇室内部会議を通じて決定された内容です。」
「そしてバルシアでも王子様の代役をする人がいるかもしれません。」
「まったく… 大丈夫の?」
「はい、大丈夫です。 ここは心配しないでください。」
「そうだね。」
「ところで道は迷わなかったんですか? 家に帰れなかったらどうしよう。」
「そ… それはどういう意味だ。 もちろん見つけたよ。」
「それはよかったですね。 正直、バルシアの王子がそちらに渡ったということよりも心配なのがこれでした。 真夜中に泣きながら彷徨うお姫様を思うと… 胸が張り裂けて… 夜も眠れない。」
「分かった、分かった。 やめろよ。」
「それでは…」
彼女が何かをもっと言おうとしていることに気づき、すぐに電話を切ろうとする。
「今日引っ越してきたので少し疲れたんだ… この辺で切るよ。」
「…」
静寂が流れる。
「なんで?他に言いたいことでもあるの?」
彼女が何か不満があることに気づくが、わざと平気な口調で知らんぷりをする。
「はい、分かりました。 ゆっくり休んでください。」
複雑な感情が抑えられたのが感じられる短くて淡々とした別れの挨拶とともに通話が途切れる。
あれこれ考え込んで余計に頭が複雑になって眉をひそめてつぶやく。
「私に認めてもらうなんて。 絶対に。 いや、それは絶対だめだよ。」
荷物の整理がまだ終わったわけではないが、いろいろな問題に悩まされすぎて到底やる気が出ない。 やるべきことが山積みになっているのに、ただ漠然とした気分になってはぐったりする。 やっと幻想から抜け出して現実をしっかり実感しているのかもしれない。
一応他のことはすべて差し置いてお風呂に入ることにする。 余計に重くなった感情を少し解いてみることにする。
私は簡単にシャワー道具を用意してすぐ浴室に入る。 温水で浴槽を満たすと、白い煙が一緒に上がってきて、浴室の中を覆う。 しっとりして暖かい煙を全身で浴びると、自然に体の疲れが溶け落ちるようだ。
お湯でいっぱいの浴槽に浸かると、自然にだるくなりため息が出る。
「やっぱり私に近づいた理由がこのためだったんだ。 もう家がどこなのか親切に教えてくれたのに… どうしよう? 違うよ。その人が私の家の位置を私に教えてくれたんじゃない? 私が先に聞いたじゃん? いや、これを問い詰めるのは今重要じゃない。 とにかく私がいるところをその人が知っているということが重要なんじゃない? 急に入って連れて行こうとしたらどうしよう… きっとこの国にも治安を担当する警察が存在すると読んでいたようだが… あらかじめ言って、家の近くに誰も近づけないようにしておくべきか? 違うよ。これは敏感すぎるのかな? その人が本当にバルシア帝国の王子であるかもまだはっきりしないじゃない?」
お風呂上がりにすぐ冷蔵庫に向かい冷たい水をがぶがぶ飲む。
「とりあえず気を引き締めておこう。訳もなく罪のない人を捕まえるかもしれないけれど、気をつけて悪いことはないからね。 これが現実なんだ。」
考えを一度整理してみると、確かにすっきりした感じがして気持ちが楽になったようだ。
倒れるようにベッドに横になって頭を抱える。
「変な悩みにとらわれてはいけない。今やるべきことだけを考えよう。 明日は新しい学校に行く日だよ。 こっちの世界の学校はどんな姿かな? こっちのほうが大事なんだよ。」
私は期待感に耐えられず、立ち上がってすぐにクローゼットに向かう。
その中には新しい学校の制服がきちんとかかっている。 まるで私を待っていたような気もする。
私はすぐに制服を着て、鏡に向かってあちこちを見る。
「こっちの世界の学生はこんな気持ちなんだ。 確かに形も変わってて、材質も変わってて、すごくぎこちない感じ。 不慣れだからか… 少し不便なような気もするし… 服のサイズは私の体にぴったり合うのかな? 元々こんな感じかな?」
「ところで… ところで…」
「見れば見るほど、これが完全に危ない気がする…」
「すごく似合ってるじゃん。」
「まったくこっちの世界の普通の高校生みたいじゃない? 本当にいい感じだけど? こんな私の姿を見たら誰が私をお姫様だと思う? JKって言ってたっけ? ここでは? ふふっ…」
自然とわくわくする気持ちで体をあちこち回しながら飛び跳ねてみる。
「鏡の中にいる私! 早く答えて! なんでこんなにきれいなの? この姿を見ると王子様じゃなくて、こっちの世界の高校生の男子たちが惚れるんじゃない? あ… それはいけないのに… 私はお姫様で… 結局は戻らなければならないし… でも.. 結局ここでは平凡なJK… 平凡なJK…」
興奮したまま制服のあちこちを見ていたら、急に元気が抜けてベッドにまた横になる。
精一杯疲れた体と心を柔らかいマットレスに任せると、すぐに自然にまぶたが重くなる。
目が自然に閉じて視界が徐々に暗くなる。
本能的にこちらの世界に渡った初日の終わりだと感じた瞬間だった。
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