25 多聞台

須磨離宮、名谷、森林植物園、岡場駅、、、

いろいろなところでやってるのね、モルックって。


「垂水っってのはnニュータウンの宝kですね」

スピーチで失格になった益次郎が、また独特の高速詠唱をイタリアンレストランで披露している。

「最近は多聞台なんか行きましたね。あthこは住民手作りでいろなイベントとかやってます」


多聞台は市のNTのなかでも、リノベーションのモデル地区みたいな立ち位置らしい。乗務であそこ通るのに知らなかった。

NPO法人が毎月のように「仕掛け」を繰り出す。

お月見会、マルシェ、空き家相談会、焼き芋、モルック、健康セミナー、クリスマス会、再生協議会、ペタンクって何? フランス発祥のスポーツ、へえー。


興味はある。触れてはいたい。

それを確かめて、SNSの画面を閉じた。


「学園都市から54系統に乗ってください」

本当は行かないつもりだった。

多聞台センターの停留所は、坂の上にある。黄色の山陽バスはロータリーの東側から入って、東側から出て、元来た道を戻る。道が狭いうえに、たまに路上駐車の車がいる。


改装された南向きの広場には、いくつかの店舗が並ぶ。「センター」というには小規模だ。

ベンチの付いた藤棚に座って、いつものように空を仰ぐ。時計台の長針と短針が重なり、スズメはノクターン2番のような甘露を降り注ぐ。


「司法予備試験を目指していたこともあったんです。独学で。親は法曹になってほしかったみたいです。大学の空きコマとか、ずっと自習室で勉強してて。」


不覚だった。黄色い点字ブロックを超えた時のような感覚。

神戸市外大のキャンパスで、あの日、私は、彼女に向かってシャッターを切った。

美しい。

初夏の風になびく緑髪と、誰にも見せない剃刀のような目つき、じっと足下を見て動かないその姿。


「具体的な勉強の手順とか、どの参考書がいいとか、全然情報が無いから苦労しました……馬鹿ですよね、4%しか受からないのに。わかっていたことですけど。最後まで論文の答案が書けるようになることはありませんでしたよ。本番もマーク試験の段階で落ちました。2年連続」


どの様な声をかけても彼女が救われないことは、明らかだった。

しみずは黙って、デジカメに目を戻した。


ボタンを操作すると、しみずは「それ」を見せた。

「一緒に、行きませんか? 私、臆病だから、もう1人を探していたんです」


緑のバスが、また1台止まる。今度は市バス車か。

地区センター広場を横切って歩いてくる西山は、烏のように毅然として、葡萄酒のような芳香で場を変質させる。


「もう始まってますね」

斜めにカットされた木製のピンが、丘陵を望むように陽光を浴びる。

どこからか、子供たちが、お年寄りが、集まってくる。

「行きましょうか」

本を閉じて、しみずはベンチから立ち上がる。

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