14 清水ケ丘

これだったのかな、私のやりたいこと。

長田駅で弓子と別れた後、ホームで電車を待っていた。

あんなに喜ばれたのははじめてだった。

「しみずさんみたいに実際に文書いている子がいるとね、なにかと頼りになります」

自分からボランティアをする日が来るなんて、思ってもいなかった。


昨夜、またも夢を見た。

何やらどこかの地方の地下道を歩いている。言葉も読めない。

地上に上がろうと思って階段を探すが、どれも地上に繋がる様子はない。

迷っているところで、目が覚めた。

最近、こんな夢ばかりだ。


何かを確かめるように、そっと髪留めに触れる。


しみずの休日は、掃除機をかけることから始まる。

どこにでもあるような公園で読書する、それが、彼女にとっては何よりの幸せだった。彼女の場合は、それが近所の垂水健康公園であった。あとは、山陽たい焼きがあれば最高なのだが。


しみずは様々な憤懣を抱いていた。おかしい。人々が堕落と退廃しようとしている。このところ周囲では様座な異変が起きていた、というのもあるかもしれない。取引先が遅延し、地下鉄すら遅延し、友人すら遅延し、PCすら怠惰になり、総務すら誤解し、鳩すら窓ガラスに激突し、食パンすらカビ、鉄すら歪み、同僚すら感情に流され、コートすらずり落ち、ボールペンすら液漏れし、課長すら病欠し、私は勤勉を半ば放棄した。なんなんだこれは。

民主主義も、好奇心も、地域貢献も、合理的思考も、市場も、経済理論も溶けて朽ちていく。

15分が立ち、本棚を整理する。


先ほど歩いて目にしたのは、夜明けだ。何か大きな物語が始まる前の、民のなんともいえない凛々しい姿。いつか忘れてしまった、美しい感覚。お先にどうぞ、と言って、缶を捨てるゴミ箱を譲る。

私はまじめと言われてきたが、元来不真面目を徹底している。真面目な愚息がこの世の中には恐ろしいほどいる。

私の手帳には鼻血の跡がある。最後に何かを達成したいと望み、熱中するように時間軸を駆けたのはいつだろう。

15分が立ち、パズル本を開く。


多量に出血を起こしたときなどは、人はアドレナリンを分泌し血圧が上がるのがわかる。簡単な仕事はたいてい無価値で、難が付くプロジェクトこそやる意義がある。弱点が修正されない指摘されない活動へ足を運ぶことはもうやめた。痛みを伴い、弱さ甘さに立ち向かい、余暇や趣味といったものは、本来そうして迎え撃つものなのかもしれない。血が出るところへウッキウキで突っ込まなければならない。

15分が立ち、洗濯物を取り込む。


NETというものはさしずめ人々から時間を奪い、考えるいとまを奪い、前提を素通りさせ、心と人生をミュースタン菌のごとく溶かすためにあるのだろう。古の思想に触れ、空中歩行していた方が利口だ。金言と言うのは、その間に生成されうる。

正しそうに聞こえることが、本当に正しくなる。

「人の言うことを信じるな。父親であるこの私さえも」

15分が経ち、PCを立ち上げた。


踏切の音と言うのが好きで業務中などによく思い出している。

バーが下がると同時に様々な轟音が遠ざかり、騒々しい強電磁場を離れ、方位磁針はその方向を指し示し、眼は焦点を取り戻し、メーターはセーブと同時にリセットされる。

意味がないと分かっていてなぜ過去のあれやこれやに拘泥する必要があるのか。

シュレッダー=シュレッダーの法則は、私を定位置に戻す。

私の中の「Treiber」は今頃、ハンドルを切り、スティックを切り、20m先を見ているだろう。

15分が立ち、ブラックコーヒーを淹れる。


「美しい声ですね」と言われると、しみずは決まって激怒することにしている。

私は内向的だ。内向的が唾棄され、外交的が賞賛され、その市場原理に小学生のころから殺意さえ感じていた。

それは、人々から「内向的」を評価するリストが消去された結果で、ある程度仕方がないとも思っている。

一方で、「コミュ障」な「外向型」をめざす。他方で、そんな意味のない二項対立を捨て、別のレーンでテーブルをひっくり返す。不満があるなら別の方法を考えよ、と碧眼の駅員は残酷なまでに虚栄心をカッターで引き裂き、私の血を抜く。

動画鑑賞など酒に酔っているだけである。

「傍観者は去れ。それとも戯言にまみれた人生に戻るか?」

15分が立ち、腕立て伏せをしてみる。


神戸人は仲良くしているわけではない。だが、悪くもない。相手を理解したなんて思ってはいけない。わかったような気になるだけである。感情など全て刹那的だ。なぜ気にするだけの採算がある?

驚くほど意見の合わない同士が活動すると、物事は早く進む。ポピュリズムとフィルターバブルから逃れることは可能なのか。

「私は親切ではありませんので」

山本は先日のスピーチの懇親会で、そんなセリフを口にした。

「人が亡くなたとか、シューイが自分より優秀とか、何か、人のためにとか、正直どうでもいいなーって」

いつものように、語尾を聞き手に丸投げして。


神戸を動かす全ての者が、高カロリーでありますように。

アーカイブ配信のCATVを見つつ、炊いた魚をほぐす。

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