4 和田岬
趣味は何を、と聞かれると、自分でもよく分かっていない。
ただ弓子が毎回答えるのは、菓子作りとコスプレ、といったところか。
地下鉄和田岬の階段を上がると、三菱の造船所のクレーンが見える。ここが神戸の発展を支えたのだと、小学校くらいで習う。
弓「おつかれー」
ややくすんだ照明の下には、色とりどりの包装と、サインペンで書かれた手書きの値札が並ぶ。
その和田岬の駄菓子屋は、主に40代の叔母様が仕切っているが、たまに弓子が手伝いに行ったりする。面白そうだから、という、彼女らしい理由だ。
弓「またあたらしいの入荷したんですね」
「子供たちがよろこんどったわ」
その店主は、駄菓子屋がなくなることに危機感を抱いていた。
彼女は、ふれあいまちづくり協議会にも知り合いがいるのだが、和田岬には「居場所」がないという。
地下鉄和田岬駅の利用者数は1万人弱で、市内でも多いとは言えない。
周辺は工場や倉庫を除けば住宅街で、駅前に笠松商店街はあるが、多くは閉店し、商店街としての機能は失われた。
人と人がつながる場所がないのである。
「弓子ちゃんは今度のラミーキューブの会行く?」
弓「もちろん!」
彼女たちが目を付けたのは、ボードゲームであった。
ラミーキューブというのは、イスラエル発祥のボードゲームで、トランプに近い。
色つきの数字の書かれた札が配られ、それを、同じ数字を3枚とか、連続する3整数、4整数とかに組み合わせて、出す。手持ちの札をなくせた人が優勝。
場合によっては、自分の札と場に出ている札を組み合わせて出す。
地下鉄の隣駅には大型ショッピングモールが最近できた。駅直結で遠方からの客もいる。
その施設は、かつて大輪田泊のあった平安時代の人工島の上に位置する。
「和田岬を有名にしたい」
店主は店頭で、クレープを焼きながら言う。もとはクレープ屋を開く計画だったらしい。
別に有名になる必要があるのだろうか?
「あそこってなにもないよね」と言われる快感を奪わないでほしい。
何もないところから、何かが生まれるのである。
百年記念病院の横から運河を眺める。底の見えない水面は、和田岬線の橋脚を反射する。
運河には不思議な引力がある。
暑い日などは、橋の上を通りすぎる一瞬だけ涼しくなる。冷気と霊気を媒介していたりするのだろう。
近くを見て悲観するのは嫌いだ。遠くを見て楽観していたい。
和田岬のホーム端で電車を待つ。アナウンスと共に、電車が坂を駆け上ってやってくる。
神戸人はまだ、神戸を知らない。
乗り込んだリニア地下鉄は、特徴的なVVVF音を発して、都心へ駆ける。
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