第31話

ベルは彼の体にきらびやかな藍色が漂っているのを発見し、戦いを避けられないと直感する。


「また会おうという約束をまさかこんなやり方で守るとは思わなかった。 今、これを嬉しいって言えばいいのかな? むかつくというか?」


「あ、そう?本当に寂しいんだけど? 私はあなたがここまで来ることができると固く信じていたので、そんなことを言ったんだけど、そうじゃなかったみたい。」


「ミラドールで会った時から心の中で変な疑いをしていたが、やはりこんな縁だったんだ。 君を忘れるなんて… その時に戻れるなら、あなたに気づかなかった私の頬でも強く殴ってあげたい。」


「実は私も驚いた。 長い封印の影響で記憶が切れたとはいえ、もしかしたらすぐに気づくかもしれないからかなり心配したんだ。 幸いなことに、やるべきことを全部してくれたじゃない? お疲れ様。」


「怪しいと思ったのはミラドールで初めて会った時からだった。 ノーズフェデン神殿の牢獄を脱出させたのも、私をケイロンに送ったのも、ルティスが私に会わせたのも、そして再び私をエイブ村に連れてきたのも… 一から十まですべてこのための計画の一部として設計されたものだと思うと鳥肌が立つ。 こんなに心を込めてあちこち旅行させてくれるのがすごくて涙が出そう。」


「とんでもないことをおっしゃいます。 ベル様がこの険しい道を素直についてきてくれたので、案内員として私の方がありがたいだけです。 旅行は楽しかったですか?」


「どうしてあえてこの方法を使ったの? クリスタルが目的なのか?」


「そうだよ。神の力を完全に振り回すためには必ず必要なものだった。 すべての過程があなたの純粋な怒りを得るためのものだった。」


「ただそのために何の罪もない人たちをこんな苦痛の中に入れたということ?」


「しかし、これがすべてではない。 実はもう一つ重要な目的がある。」


「また別の目的?」


「一種の試験をしたんだ。 単純にクリスタルだけを得ようとしたなら、もっと楽で良い方法があったかもしれないけど、あまり簡単に望むことを達成したら面白くないじゃないか? だから特別に苦労させてくれたの。 もがいて苦しむのを見ようと。」


「はぁ…今サディズムでもあると自慢したいの?」


「サディズムか… ただ誰かを失う時に感じる悲しみを皆が感じてほしいだけだ。 デミス?最初からあいつには忠誠心なんてなかった。 私の胸はむしろ復讐心と憎悪で燃えていた。 運命という理由だけで私の大切な人を無残に切ってしまったあいつを今でも絶対許せない。 ただあいつだけじゃない。 リッパーだと言って同じことをする奴らは皆私の苦痛を感じてほしい。 ゆりかごで死を拒否した私の大切な人がまさにその奴の手に消えた。 運命だと言いながら、私だけどうしてこの苦痛を感じなければならないの? みんなが感じてこそ公平じゃないかな? あなたも少しは私の気持ちが分かる気がしない? 大切な友達と家族をみんな失ったじゃないか? まだかな? まだ何かを失くさないといけないのかな? 私の気持ちを理解するにはまだ足りないのかな?」


「全部その苦痛を感じさせたくて作ったの?」


「そう。デミスもアイギスと自分の一族を自分の手で送りながら感じた感情だ。 英雄という奴も結局こんな部分では同じじゃないか? こんな共感できないカタルシス。 共感できないのに共感しなければならない現実の楽園。」


「私だけではない。 ゆりかごにいる皆が同じ気持ちだった。 私は唯一の生存者として彼らの気持ちを伝えたいだけだ。 死人に口なし。 世の中にない誰かの心を代わりに伝えたいのはあなたも私と同じじゃない?」


「ブラフマの封印を解いたことは、ゆりかごの皆が長い時間にわたって成し遂げた成果だ。 私たちの心がどれほど切実だったかをすぐに示す結果だった。 アイギス·エーテルを感情に染めるのは、私一人で一晩でできることではないということをあなたもよく知っているでしょう? リッパーという君を含むこの世の皆に真の教えを与える。 同じ苦痛だけで得られる教えをね。 それが本当に楽園じゃない? 誰かの犠牲で建てられた利己的な楽園で、その苦しみを理解できなかったらどんなに悲しいだろう? そうじゃない?」


「君がそんなほらを吹くのも今日で終わりだよ。」ベルガノットを抜いて今にも飛びかかるようにぐっと睨む。


「そう、まさにその表情だ。 目を輝かせながら歯ぎしりした表情。 私が望んだのがまさにその表情だ。」


「その口を今すぐ塞いでやる。」


「そう、蒸らさずに早く始めないと。 これ以上時間を無駄にできない境遇であるのは私も同じだよ。 本当に重要な行事が近づいている。 見逃してはいけない。」


バーカスもやはり鎌を抜く。


「え?」


「カディヤって呼んだっけ? いい名前をつけてくれたね。 会いたいでしょ?」


「カーディ?今どこにいるの?」


「ああ…その名を聞くやいなや熱を上げるのを見ると心配になるようだね。 その子が持っているクリスタルもやはり神様の力を目覚めさせる良い材料になるだろう。」


「いったい何をどうするつもりなんだ。」


「もうみんな知ってるでしょ? あえてまた説明しなければならないのか?」


「そう、二度と言う必要はない! 死ぬ準備でもしろ!」


怒りで燃え上がるベルが鎌にエーテルを巻き、稲妻のように彼に飛びかかる。


彼もやはり力強い気合いの音を立てて鎌を振り回す。


2つのエーテルがぶつかり,鋭い音が鳴る。


ベルとバーカーズの鎌が触れ合ったまま震える。


バーカスはニヤニヤしながらベルの性質を高める。


「ああ…大切な友達を直接切ってしまったからかもしれないけど、確かに怒りがもっと大きくなったね。 計画に精魂を込めた甲斐がある。 このエーテルは私が特別に認めてあげる。 本当に感激だね。 神殿の前で君に初めて話しかけた瞬間から今まで欲しかったものがまさにこれだったから!」


ベルはバッカスの嘲弄にさらに感情がこみ上げると鎌を握った両手に力が入る。


「うるさい!」


「でも…そんな怒りに襲われた君は隙だらけになるしかない。」


バーカーズはそっと体をひねってベルの攻撃をかわす。 ベルがバランスを崩してふらふらすると、バーカスはエーテルを巻いた鎌を大きく振り回す。


ベルは姿勢が崩れた状態で彼の斬撃を受けて倒れる。


ベルは鎌を床に落として荒い息を吸う。


「くぅ…」


「こんなに簡単に崩れるの? 助けに行きたければ早く私を倒さなければならないじゃないか? 何してるの? 早く起きろって!」


それを聞いたベルの目の前にカディヤとエルマがちらつく。


ベルはやっとうめき声を上げ,力を絞り出して鎌をつかむ。


「あ、そうだ!まだ戦えるじゃん? そうじゃない?」


ベルは赤いエーテルを吐き出しながらバーカーズに飛びかかる。


バーカスは茶目っ気たっぷりの表情でベルの攻撃をかわす。


「そう、そう! もっともがいてみろ!」


ベルが大きく後ろに跳ね上がり、赤いエーテルを乗せた斬撃を放つ。


ベルが大きく後ろにジャンプして赤く燃え上がる鎌を大きく振り回すと、バッカスもやはり待っていたかのように藍色のエーテルを乗せて大きな斬撃を放つ。


二人のエーテルがぶつかって四方に雪花のように散る。


「本当に美しい踊りを踊るんだね。 もう死ぬ命というのがもったいないほどだ。」


「今言ったことを後悔させてやる。」


「ほぅ…怖いんだけど?」


バッカスはベルが飛びつく時にさっと避けて、すぐベルの手首をつかんでひねってしまう。


ベルが眉をひそめて鎌を落とすと、バーカスはベルの首をつかんで地面に強く叩きつける。


「くぅ…」


ベルが抜け出そうともがくが、バーカスが強いエーテルを吐き出してベルを身動きもできないようにする。


ベルは藍色のエーテルに押さえつけられて息が詰まり意識が薄れる。


「何の未練があってこんなに切迫しているの? 家族も失い、友達も失い… もう君のそばには誰もいないじゃないか? 何をもっと失くしてほしいの? 望むなら特別に慈悲を施して苦痛なく送ってあげることもできる。 君の家族と友達のすぐそばにね。 あなたも早く会いたくない? 懐かしくない?」


「私は…」


ベルはバーカーズの言葉に刺激を受けて、すでに去ったカリンとセイジ一族の声が耳に響く。


「誓いを立てた。デミスと決着をつけるまでは絶対崩れない!」


ベルの怒りが噴き出す強力なエーテルにバーカスが押し出される。


「燃え上がる怒りと共に私の限界をもう一度克服し、新しい成長を成し遂げる。」


ベルの体の周りに漂うエーテルが段階的に強くなり、あっという間にきらびやかな光を四方に放つ赤い鎧に変わる。


バーカスは突然のベルの変化に戸惑うが、それでも自分の相手にはならないと思って平気なふりをする。


「ほらを吹くな! 今さら姿だけ少し変わったからといって変わることは何もない! 今すぐ決着をつけるよ。」


「果たしてそうだろうか? 私の考えはちょっと違うんだけど。」


ベルは外見だけが変わったわけではないと確信している。 体が羽のように軽くて腕と足に力があふれてまるで生まれ変わったようだ。 胸の中で燃え上がるエーテルに生じた変化が自ら感じられ、自然に自信が生まれる。


「絶対負けそうにない。」


「くぅ…」


「新しい力を試してみようか? 覚悟はできているだろう?」


ベルは鎌を持ち上げてバーカーズに向かってまっすぐ飛びかかり、今言った言葉が単なる虚勢ではないことを証明するかのように、力と速度の両方で優位を占めながら一方的にバーカスを追い詰める。


反面、あっという間に完全に変わった形勢にむしろバーカーズが焦る。 バーカスはベルが振り回す鎌をただ防ぐだけで、自分のエーテルも次第に弱くなるのが感じられる。


危機感にとらわれたバーカーズはよろめきながら最後の発悪を準備する。


「あり得ない… あり得ない… こうやって終わらせることはできない… 絶対。」


藍色クリスタルから噴き出すエーテルが今にも爆発しそうに激しくベルとバーカスの周りを吹き荒れる。


ベルはあたりを見回して情けないように皮肉る。


「最初から最後まで本当に卑怯なことばかり選んでやるやつだね。 これでは君も無事ではない。 変な小細工で通じないから、すぐにやるというのが自爆なのか?」


「そう、勝手にしゃべりなさい。 今さら命なんかもったいなくもない。 旅立つ途中で寂しくないように君でも仲間にしなければならない。」


「くぅ…」


激しく吹き荒れるエーテル暴風に包まれたベルも危機を直感し、やはり準備をしっかりする。


ベルが必ず耐えると固く決心し、精神を集中して周囲に流れるエーテルを厚くする。


「消えろ!」


バーカスが信号を送ると雷のような轟音とともに島全体を揺るがす巨大な爆発が起きる。 その威力は、バーカーズが命の見返りに準備した攻撃という言葉が惜しくない水準だ。 たった一度の爆発で周辺の木が丸ごと粉々になり、石片が小さなほこりのように四方に飛んでしまう。


激しく舞う土ぼこりの中で満身創痍になったバーカスがよろめきながら座り込む。 ベルもやはりひざまずいて荒い息をしている。


ベルは黙って立ち上がり,鎌をつかんでバーカーズに向かってとぼ歩いていく。


「来ないで… お願いだから来ないで… どうか…」

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