第90話 神様も粋な計らいをするものである


 そう心の中で悪態を吐きながら私はそのまま起き上がり尻に付いた汚れを叩き落とすと、そのまま修練場の中へと入って行く。


 するとそこには魂が抜けたようなルドルフが項垂れるように座っているではないか。


「……ルドルフ?」

「あ…………? フェリアか……」


 ルドルフは、近づいても私の存在に気付いていないようなので声をかけてみると、壊れたブリキ人形のようにゆっくりと首を動かして私の方へ向き、覇気のない声で返事をする。


 その目は焦点が合っておらず、まるで抜け殻のように感じてしまう。


「一体何があったというのだ?」

「……そっとしておいてくれ。俺は……今まで自惚れていたという事をルーカスによって徹底的に分からされた負け犬だ。笑いたければ笑えばいい」


 どうやらルドルフはルーカスに負けてしまったようなのだが、その態度から見てもかなり一方的に負けてしまった事を窺うことができる。

 

 あのプライドが高いルドルフ自ら『ルーカスによって徹底的に分からされた負け犬だ』と言ってしまう程なので、勝てそうなどとは微塵も思えない程の実力の差を突きつけられた上で負けてしまったのだろう。


 その事を知った私は『これは……神が私の為に連れてきた王子様ではないのか?』と思ってしまう。


 いや、間違いなくそうであろう。


 でなければそれ程の実力を持ちながら今までどのパーティーにも姿を一度も表さず、更に婚約者も決まっていない上に親の爵位は公爵。しかもそのルーカスは私と同い年であり同じクラス……いったいどれほどの奇跡があればこのような事が起きるのか。


 どう考えても神様が不憫な私の事を思って連れてきた王子様という事以外考えられない。


 神様も粋な計らいをするものである。


「なぁ、ルドルフ」

「…………なんだ? どうせ俺は最悪学園を退学させられるような人間だ。そんな俺に今さら何を聞くというのだ?」


 そして私は、私の王子様候補であるルーカスについて色々とルドルフから聞き出したいと思い話しかけるのだが、先程の決闘が精神的にかなりのダメージを負ってしまっていたのか、以前までのルドルフとはまるで別人であり、ネガティブ思考になっているではないか。


「すまないルドルフ。今私が聞きたい内容は君の事ではなくルーカス様のことである。いったいルドルフの無駄に高いプライドをここまで粉々にできてしまうルーカス様の実力とはいかほどのものであるか教えてくれないか?」


 しかしながら、ルドルフには悪いのだが今私が聞きたいのはそういう事ではない為、謝罪の上ルーカス様の実力について聞いてみる。

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