第8話 おやっさん
その時、トントントントンと小屋のドアを叩く音がした。俺は身構えた。敵が襲ってきたのではないかと・・・。だがカワミさんはほっとした顔になっていた。
「大丈夫だ。アキバだ。来てくれたんだ」
カワミさんはドアを開けに行った。多分、魔法で透視ができるのかもしれない。
ドアを開けるとさっと一人の中年の男が入って来た。作業着のようなツナギを着て、白髪頭で優しそうな顔をしていた。この人がアキバさんなのかもしれない。
「カワミさん。大丈夫だったか?」
「ああ。大丈夫だ。それより彼だ。彼は・・・」
カワミさんはアキバさんに今までのいきさつを話した。俺がジョーカーに改造されたこと。今までの記憶を失ってしまったこと。怪人を振り切ってここまで逃げてきたことなど・・・。
「わかった。ソウタ。もう大丈夫だ。いっしょにライムの町に戻るぞ」
「ええ・・・。アキバ・・・さん・・・ですね」
「何を他人行儀な! 気持ち悪いぞ! いつものように『おやっさん』と呼んでくれ!」
俺の戸惑った顔を見てアキバさんは笑って肩をポンと叩いた。「おやっさん」・・・これはラインマスクを助ける立川藤平を相川良がそう呼んでいた。確かに人の好さそうで小柄な中年男という点では「おやっさん」にぴったりだ。
「わかりました。おやっさん! でも俺のことは相川良と呼んでください。 そう呼ばれた方が今の俺にはしっくりくるので」
そう呼んでもらえたらより一層、ヒーローになり切ることができて心躍るだろう・・・思って言ったのだが、おやっさんは渋い顔をした。
「相川良? なんだそりゃ? 変な名前だな。そんなことよりすぐに行くぞ! ソウタ!」
おやっさんが俺の肩をポンと叩いた。やはり「相川良」とは呼んでもらえないようだ。しかし「相川良」ってこの異世界ではそんなに変な名前なのか・・・。仕方ないから「ヤスイ・ソウタ」でいくしかない。
俺はカワミさんに「さよなら」を言って小屋を出た。おやっさんはホバーバイクに乗ってきていた。それはかっこいいロゴのついたカウルがついており、ピカピカに磨き上げられていた。
「特別製だ。いいだろう」
「ええ、いいバイクですね」
俺はそう答えて自分のホバーバイクにまたがった。すると周囲に何か違和感を覚えた。誰から影からじっとこちらを見ているような・・・。俺はすぐに辺りを見渡した。おやっさんは俺を見て怪訝な顔をした。
「どうした?」
「誰かに見られているような気がします」
「なに!」
おやっさんも周囲をぐるりと見渡した。辺りは静まり返って、鬱蒼と木々が茂っている。不気味な雰囲気はある。
だがしばらくしても何も起こらなかった。俺は確かに何者かの視線を感じていた。それは森の中の獣のものだったのか・・・。
「気のせいじゃないのか?」
「そうかもしれません」
俺は少し気がかりだったが、そのままホバーバイクを走らせた。だがその不安は的中していた。確かに何者かが森の中からこちらをうかがっていたのだ。
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