KU。RU。MA。

若阿夢

POSO

 2020年秋、新しい車にした。日本の誇る父酔他自動車製である。といっても、その車が初ではない。母の行きつけのディーラーが父酔他であったというだけだ。


 私の車は台髪で、新古車を即金購入し、既に7年が経とうとするものであったが、2020年の春に売った。その春、母が視力を失ったのだ。ならば、車は家に何台もいらない。

 私の車は購入したものだが、母はいつもローンを選択している。売却当時、母がまだ入院中であり、母の車を処分するのは気が引けた。また、それをやってしまったら、縁起が悪いではないか。母はちゃんと存命中なのだ。

 購入時200万弱だった車は20万ほどで引き取られていった。即金で買った車を手放すのは案外あっけないものだ。


 さて、本題に戻ろう。2020年秋、母が戻ってきたため、助手席に乗せ、気分よく、私が母の車、赤POSOを運転していると、珍しくディーラーの盛剰さんから、電話がかかってくる。

「なんですか。お得な話なら、聞きますが。」

「お得です。お得です。大出血サービス。もう二度とないぐらいです。」

 そこまで言ったかは定かではないが、その時、父酔他自動車が困窮に落ちていることは想像に難くなかった。2020年の春、ガソリン価格はリッター99円にまでさがった。ちなみに2024年現在、170円ぐらいである。おっと、こちらはこちらで原油価格が値上がりした後だ。2015年ぐらいであれば、130円程であったか。

 2020年は世界のコロナ対策で外出禁止令が出て、誰も利用しなくなり、ガソリンの供給過剰が起きていたのだ。誰も外出しない、ガソリン供給過剰、イコール、車は利用されていない、買われないということだ。

 

 母は盛剰さんから何台も車を購入している。私の台髪車と同時期にすら、桃色POSOを購入、その二、三年後、赤POSOに変更した。

「車変更の秘訣はローンにして、車検を目安にするのよ。」

と長い間、母は言っていたものだ。ただ、私から見ると、桃色POSO→赤POSOは、いい変更ではなかった。機種は同じなのだが、グレードがなんか違う。桃色POSOはウィンカーランプのところがゴージャスで、沢山ランプがつくところを母は気に入っていた。赤POSOは、シンプルすぎるうえ、運転中の車内の音も桃色POSOより母はうるさいと文句を言っている。そう、単にマシンが新しくなったところだけがよかった。


 というわけで、赤POSOに全く未練のない我々はその大出血サービスの話を聞くことにし、紫TAROSに変えることにした。

 車の仕様決定並びに金額選定は盛剰さんがタブレット画面に出ているメニューを読み上げて、どういうものか説明し、選択肢の中から決定するだけのものだ。

 赤POSOのローンの清算を頭金に、ローンを組んだ。その頃、私は、なるべく母の生活スタイルを維持するようにしていたのだ。私単独であれば、即金で買うところである。


 かくして、紫TAROSに変更する時が来た。




 

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