第7話 狂気のメリークリスマス マオマオ視点
今日は12月25日。俗に言うクリスマス。
だが私はもうサンタクロースなんて信じる年じゃないし、母と父がその正体だと知っている。
そして毎年この日になると枕元に置かれているプレゼントは、今年ばかりは理解するのに時間がかかった。
「…………なんだこれは」
枕元どころじゃない。猫のぬいぐるみ、ブランド品の可愛い服、魔界ハンターDXのマスコットキャラ『ムイムイ』のグッズ、およそ私の趣味を全て網羅したプレゼントの数々が、私の部屋を埋め尽くしていた。
(まさか……いや、そんなわけ……)
ピロンとナイトテーブルの上のスマホが鳴った。
昨日変更した待ち受け――司とのツーショットを背景に『メリークリスマス by 君だけのサンタクロース』と狂気にも似たメッセージが表示されている。
「…………やっぱりか……はぁ……」
漏れるため息。緩む口元。昨日の出来事を思い出し熱くなる頰。だがそれでもこれはやり過ぎだ。というかこのままでは私のプライバシーは死んだも同然だ。
「あいつにならそれでも…………って私はなにを言っている! そんなわけあるか!」
そうして私はプレゼントで埋め尽くされた自分の部屋から脱出した――――。
「あらおはよう茉央。メリークリスマス」
「おはおは。昨日はお楽しみだったわね茉央。私にも司君分けてよ」
リビングでは母と茉莉花がコタツでテレビを観ていた。二人の顔がニヤついているのは気のせいではないらしい。
「おはよう。茉莉花よ、私と司はそんな仲ではない。あまりしつこいようならその無駄にデカい乳をもぎ取るぞ?」
「ひえっ! 茉央の目が怖い!」
「分かったなら口を挟むな。……というか父はどうした? こんな日も仕事か?」
そこにいない父親の姿を疑問に思う。確かに父はいつも仕事に追われてるが、毎年この時期はまとまった休みを貰えていたはずだ。
「あら? 言ってなかったかしら? お父さんね、いきなりだけど最近転職したのよ。それでさっき職場の上司の方に呼び出されたの。ま、すぐ帰ってくるわよ」
「は? 転職⁉︎ 突然過ぎないか⁉︎ それにいったいどんな仕事になったんだ⁉︎」
このご時世、転職など簡単に決まるものではない。それも40代半ばの父が、いきなりそんな決断をするとは到底思えなかったのだ。
しかし母は嬉しそうに顔を綻ばせている。茉莉花に関してはドヤ顔とニヤつきのブレンドだ。
「それは秘密よ。ただ少しヒントをあげるとしたら…………そうね、諜報員みたいなものかしら」
「年収が爆上がりしたって喜んでたわよ」
意味が分からない。ただのサラリーマンだった父が諜報員というのも、それで年収が爆上がりするのもまるで理解不能だ。
「あ、それと茉央。驚かないで聞いて欲しいんだけど、サンタさんの正体はお父さんだったの。あのたくさんのプレゼントはね、サンタのボス――つまりボスサンタからのボーナスだって」
(ボスサンタ……? それと諜報員…………まさか……)
「外堀はとっくに埋められてるのよ。ありがとう茉央。貴方が私の娘で本当に良かったわ」
戦慄が走った。微笑む母の顔から、純粋な狂気が滲み出ている。
「私を売った……のか……?」
「言葉に気をつけなさい茉央。貴方は司君――いえ、司様と結ばれる運命なのよ」
「悔しいけど負けだわ。司様はこの世界の支配者になるのよ。私は茉央の姉として、その甘い汁をしゃぶり尽くさせてもらうわ」
合点がいった。司が私の個人情報をどこから得ていたのか、全ての謎が一つに繋がった。
二人の狂気に足がすくむ。だが追い討ちをかけるように、ポケットのスマホがピロンと鳴った。
『外を見てください』
思わず窓の外を覗き込む。レースのカーテンの向こうに、見慣れないシルエットが二つ立っている。
1つ目は父。だがその格好はどう見てもサンタのそれまんまだ。
そして2つ目。トナカイの格好をした金髪イケメンが、まだ雪も残る地面に四つん這いになっている。
――――そのあまりに現実離れした悪夢のような現実に、私の脳は停止することを選んだ。
P.S 本気で司を叱ったら、父は元の職場に再転職した。
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