第2話 2023年1月19日 高崎駅前歩道橋

 掌を切ってみました。流石10万以上のナイフだけあって、すっと、瞬きより早くぱっくりいって、三日月みたいに割れた所から血が吹き出しました。


 ところであなた、そんなに薄着で寒くないですか? 珈琲でも飲みますか? いりませんか、そうですか。


 どこからお金を出したかって? 案外ホームレスの中には金持ちもいるんですよ。なんてね。


 私には妻と息子がいてね。息子の啓斗は自閉症で言葉が話せませんが、絵本が好きでした。


 5歳の時「あ」から「ん」まで書かれたカードで根気強く教えたら、少しずつ覚えてね。いつもノートに簡単な言葉で詩や物語を綴ってました。


 13歳の時、詩が全国コンクールで佳作をとってね。「将来は詩人か作家か?」なんて妻と言ったりして。


 私はお気楽人間でね。啓斗が啓斗らしく生きられたらいい、彼を彼のまま愛するんだなんて言ってました。妻が息子のことで不眠になるくらい悩んでいても、大丈夫、大丈夫って励まして。


 もっと深刻に考えていたらね。馬鹿だよ、私は。


 あんなことになるなんて……。

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