3 すき
華は顔色を赤く青く変えながら、男子を見上げる。
(……正面から見たら、もっとカッコイイ。澄んだ、柔らかくって深い瞳。こんな人、彼女さんがいるの当たり前だよ。でも、私……私……)
思った以上にダメージを受けている事に気付いた華は
そして。
恋愛小説を読むと、時折浮かんでくる金髪男子の顔に首を傾げては、『友達になれないかなあ』などと思っていた自分に。
そんな夢を見ていた自分に、愕然とした。
(……泣きたい。悔しい。私の馬鹿)
あれは、好きだからこそ思い描いた願望だったのだと。
●
いつか。
いつか、もしかしたら。
本屋で出会ううちに、挨拶をするようになったり。
いつしか、世間話をするようになったり。
連絡先を教えて、電話やチャットで話したり。
並んで、歩いたりして。
そんな『もしも』ばっかりだった。
華は自分の夢見加減に唇を噛みしめて、改めて思う。
何一つ、できないままに。
気持ちだけが。
好き、という気持ちだけが。
どうしようもなく、胸の奥にある。
が、辛うじて涙を
(この人の顔をもう一度だけしっかり見て、胸に焼き付けて……『大丈夫です、ありがとうございました』って、笑ってさよなら……しよう。長々と話をしてたら、彼女さんだって絶対いい気分じゃない)
そう思った華は、ダッフルコートの胸元を、ぎゅう! っと握りしめた。
だが、正常な思考はそこまでだった。
そこから。
チャラ寄りのチャラ男子、
●
「顔色良くない……大丈夫? 飲み物買ってこようか?」
遠慮がちに話す隆太に、ふるふる、と首を振った華は、とて、とて、と歩き出した。
ゆっくりと。
隆太の足元を見ながら、進んでいく。
一歩。
また、一歩。
少しだけ躊躇いつつも、もう一歩。
「あ、え? あの……どうしたの? えっと……」
ぞの問いかけと同時に、華は小さい歩みでピタリ、と動きを止めた。隆太は、手を伸ばせば触れられるまでに近づいた華に焦る。
(近づいてきた?! お、俺、どうしたら。いや待て、落ち着け)
予想外の展開に、どう反応していいかわからずに隆太が立ちすくんでいると、俯いている華の唇が動いた。
赤い、色鮮やかな薄めの唇が尖る。
" す "
すぐに、顎を引くように唇を開く。
" き "
その二文字を唇の動きだけで表現した華は微笑んだ。
「え? ごめん、聞こえなかった! 今、何て?」
華の可憐な笑顔に顔を赤らめつつ、『聞き逃した!』と勘違いをした隆太は慌てて聞き返し。
絶句した。
眉をハの字にしながら笑顔を浮かべ、華の両眼から、一粒。
また、一粒。
大粒の涙が、零れ落ちていく。
●
「…………!!!」
「ま、待って!」
背中を向けて階段へと駈けだす華と、慌てて後を追った隆太。
ここでも華は、予想外の動きを見せる。階下の出口へと向かわずに、上りの階段を目指して走っていく。
「ちょっと待って!」
「馬鹿! 泣くなんて…………あっ!」
追いかける隆太の目の前で、上り階段の一段目に足を引っかけた華。
「きゃああ!!」
「うおおおおお!!!」
つんのめる華の腕に、隆太は必死に手を伸ばした。
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