【新】和風女子とチャラ男子と、本屋さん
マクスウェルの仔猫
1 和風女子とチャラ男子
バレンタインが終わり、道行く人々に大勢のカップルが追加されていちゃラブ度が増している、とある郊外の駅で。
少ししょんぼり顔をした制服姿の女子が、とてとて、と改札を抜け、隣接した駅ビルへ向かっていく。
(本屋さんにあの人、いないかなあ。元気になりたい。元気が欲しい)
腰までの黒髪をサラサラと揺らし、背筋を伸ばして歩く
女子にしては高い168センチの身長と黒ぶち眼鏡が、たおやかで古風な乙女の雰囲気を醸し出している。
(朝の占いは悪くなかったのに……今日は授業中に何度も『円城! 起きてるか!』って言われて『私は目を開けたまま眠れません』とか返事したら、他の先生も面白がって私を御指名するし……授業中寝た事ないでしょうにー!)
眉毛をハの字にして、ふんむむう、と目を閉じた華から溜め息が漏れる。
(こんな時は、心に潤いが必要だよ。君の姿が見れればきっと私も元気になれる気がするよ。リア充のいちゃラブさん達も気にならないくらい元気になるよ、きっと)
二月ほど前の、自分が今向かっている本屋での出来事を思い出して華は微笑む。
華が手を滑らせて落とした財布を拾い上げ、ふわりと微笑んで差し出す金髪男子の姿が脳裏に浮かぶ。慌てて見上げた先には、涼やかな瞳。
左胸を押さえた華は顔を顰めて目を閉じ、唇をアヒルにした。
(うう、耳まで熱い……最近多い。何だろこれ)
アオハル真っ盛りのお年頃。恋というものにも当然のごとく興味津々である華だったが、片想いも未経験で付き合うという事さえよく分からずに告白されても申し訳無さそうに断っていた。
それどころか自分を過小評価している為に、『円城華のチョコの行方は?!』と話題になっていた事を知らない。
ちなみにバレンタインチョコは、両親と友達のお腹に収まっている。
そこまで金髪男子が気になるのであれば何かきっかけを作ればいいようなものだが、見かけてから二月も経っていないのに声をかける技量も度胸も、恋愛初心者の華にあるはずがない。
そもそもが、参考書を買おうとした華が床に財布をカーリングの様に滑らせたのを拾ってくれたのがこの男子であった、というだけの話である。
その男子が自分より身長が高く、ソフトモヒカンの金髪に着崩した制服という、一見半端なくチャラい感じにしては深く透明感のある瞳と柔らかい表情が気になった華。
それ以来その書店を帰り道のルートに加えた華は、自らの気持ちが、恋愛判定をすれば超ラブ寄りの片想いになりかけている事に気づいていない。
会えたらラッキー!
元気が出ちゃう!
やったあ、レアキャラぁ!
華はそう捉えていたが、姿を見るだけで元気になれそうな存在が、たまに見かける人なだけで済むはずがない。
そして。
華は、自分の気持ちを思い知る出来事と遭遇する羽目となる。
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