第35話 クレア様から呼び出されました

ただ、気が変わって、またルドルフ様に付きまとうかもしれない。すっとルドルフ様の方を見ると、バッチリ目があった。


「どうしたのだい?そんなに心配そうな顔をして。クレア嬢なら多分もう大丈夫だよ。でも、念のため護衛たちの話はこのまま進めるからね。もしかしたら彼女以外にも、君を狙う不届き者がいるかもしれないし」


私を狙う不届き者か。そんなもの、居ないとは思うが。ルドルフ様がそう言っているのなら、しばらくは様子を見るしかないか。


このままクレア様が諦めてくれると嬉しいな。


その後もクレア様は特にルドルフ様に近づく事もなく、平和な日々を過ごしていた。なぜかルドルフ様を見ると、怯えた表情を浮かべ、急ぎ足で去っていくのだ。あんなにルドルフ様にベッタリだったのに、本当にどうしたのかしら?


サーラも


「最近クレア様、ルドルフ様に一切近づかないわね。何かあったのかしら?」


そう言って首をかしげていた。ただ、どんな理由であれ、クレア様がルドルフ様を諦めてくれたのなら、有難い話だ。これで私も、心置きなくルドルフ様と婚約が出来るわ。


そんな平和な日々が1ヶ月半ほど続いた。いよいよ私が婚約を結べる年齢になるまで、あと半月を切ったのだ。既にルドルフ様との婚約の準備も進めていたある日。


令息たちは武術の授業の為、男女別で授業を受けている時だった。授業が終わった瞬間、クレア様が私の方にやって来たのだ。


“アメリナ様、少しだけお付き合い願いますわ”


小声で話しかけて来たかと思うと、私の腕を掴み、急に走りだしたのだ。向った先は、校舎裏。こんな人気のない場所に連れてくるだなんて、もしかして私、誘拐される?それとも文句を言われる?


恐怖で体が強張る。


「アメリナ様、そんなに怯えないで下さい。以前あなた様に酷い事を言ってしまった事は謝りますわ。ただ、どうしてもあなた様に伝えたい事があって。とにかく時間がないのです。あの変態が来る前に伝えないと」


「変態?」


この人は一体何を言っているのだろう?訳が分からず、首をコテンとかしげた。


「単刀直入に申します。ルドルフ様は、超が付くほどド変態ですわ。アメリナ様、どうかあの男から逃げて下さい。婚約していない今なら、まだ間に合います!ですから、早く」


この人は一体何を言っているのだろう。もしかして、自分がルドルフ様に受け入れられなかった事が不満で、私とルドルフ様の仲を裂こうとしているのかしら?


「クレア様、申し訳ございませんが、私はルドルフ様を愛しております。すれ違ってしまった事もありましたが、それでもルドルフ様は今、私を全身全霊で愛してくれておりますわ。私はそんな彼の気持ちに応えたいのです」


「あなたは何も知らないからそんな呑気な事が言えるのよ。あの男はね…」


「アメリナ、こんなところにいたのだね。あれ?クレア嬢、俺の大切なアメリナをこんなところに連れ出して、一体どういうつもりだい?」


私達の元にやって来たのは、ルドルフ様だ。私の傍まで来ると、ギュッと抱きしめ、さらにクレア様を睨んでいる。


「出たわね、変態!こんなに早くやってくるだなんて、本当に気持ち悪いわ。アメリナ様、この男は…」


「クレア嬢、俺に好意を抱いてくれている事は嬉しいが、アメリナに出鱈目を言わないでくれ。今度は俺を変態扱いして、アメリナから遠ざけようという作戦かい?」


「ふざけないで!もう私は、あなたの様な変態なんかに興味はありませんわ。むしろ、関わりたくないくらいです。ですが、アメリナ様が…」


「いい加減にしてくれるかい?これ以上アメリナに絡んでくる様なら、今度こそ容赦しないよ。これは警告だ。次はないからね…」


「ぎゃぁぁぁ!誰か助けて!!」


クレア様は真っ青な顔をして腰を抜かし、それでも必死に立ち上がりすごいスピードで逃げていった。ルドルフ様、一体どんな顔をしたのだろう…


「さすがにここまで言ったのだから、きっともうあの女がアメリナに絡んでくることはないよ。それにしても、恐ろしい女だな。アメリナに嘘の情報を流そうとするだなんて。アメリナ、クレア嬢の言ったことは、全部嘘だからね」


「ええ、分かっていますわ。それにしてもルドルフ様の事を変態と言うだなんて、さすがに失礼ですわ。ルドルフ様は、とても紳士的でお優しいのに」


ギュッとルドルフ様の手を握り、そう伝えた。


「ありがとう、アメリナ。アメリナの15歳のお誕生日まで、あと少しだね。アメリナ、俺と婚約してくれるよね?今更嫌だなんて言わないよね?」


ルドルフ様が、切なそうな顔で見つめてくる。この顔は反則だ。


「ええ、もちろんですわ。その…私もルドルフ様の事を、お慕いしておりますので」


なんだか恥ずかしくて、俯いてしまった。


「アメリナの口から、直接その言葉が聞けるだなんて嬉しいよ。アメリナの誕生日の日は、盛大にお祝いしようね。それから、俺たちの婚約披露も行わないと。やっと…やっとアメリナと婚約を結べるのだね。俺は嬉しくてたまらないよ」


「私もですわ。これからもずっと一緒です」

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