本文




「お誕生日おめでとう!」


 にこやかな笑顔で始まった、誕生日会。キラキラと輝く蝋燭。真っ暗でありながら、木漏れ日のように、落ち着いて、ゆったりとした空間をつくりだしている部屋。そして、目の前の、ケーキ。


 全てが、夢のようだった。

 数日前までは、夢だったが。




 ×+×+×+×+×




 あぁ、寒い。さすがに真冬に薄着は堪える。


 まだ、夏はいい。けれど冬だ。体が凍える。

 冬場の体温管理は、ホームレスの一番の問題だ。


「どうしたの?もしかして、迷子?」


 どこかに、ダンボールとか、毛布とか、落ちてないかな?


「あれ、聞こえてない?」


 うーん、まぁ、あるわけないか。


「わ!」


 誰かにぶつかってしまった。


「ずーと、声かけてるんだけど、どうしたの?」


 ここは、私の人生の大きな転換期だった。




 ×+×+×+×+×




「じゃあ、君は帰るところがないわけだ。」


「は、はい…。」


「よし、じゃあ家にきなよ。」


 そう言って、その人は誘ってくれた。




 ×+×+×+×+×




「じゃあ、まずは自己紹介から。私の名前は、多田ただ 名香なか。この組織の組長をしてる。」


「わ、私は名前がないんです。」


「あれ、そうなの! うーん、じゃあ小さいからスモールで!」


「あ、ありがとう。」


「うんうん、じゃあスモールちゃん一緒にがんばろ!」


「それで、誕生日とか、わかる?」


「え、ええと」


「わからない感じかな。それじゃあ、今日にしよう!」


「え!」




 ×+×+×+×+×




 Happy birthday to you!


 軽やかな、英語が、部屋中に響いた。

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