第25話 田中のSNS

 これは田中のSNSの書き込みだ。


『最近の研究結果には自信がある! これで新しい発見に一歩近づいた!』

『週末は趣味の写真撮影に没頭。自然はいいね!』

『今日のゼミでのフィードバックがとても励みになった。さらなる研究へのモチベーションが湧いてきた!』


 やはり最初は、普通のかなり真面目そうな学生に見える。


『研究のデッドラインが迫ってきて、かなりのストレス……。焦らず、一歩一歩進めよう』

『何かとゼミでの意見の食い違いが多くなってきた。みんなとの協力が難しい時もあるな』

『ゼミの雰囲気が最近険悪になった。自分の考えがうまく伝わらないみたいだ。もう少し想像力をはたかせればいいのに』


 書き込みは、不満を表すものの割合が増えてきた。


『桑名のやつ! あいつ絶対僕の研究盗んだだろ! 言われたとおりだ!』

『最近、死んだ父さんがよく見える気がする。おかしい。死んだはずなのに。夢と現実の区別がつかなくなってきた。もしかして、僕は何かに操られているのか?』

『この世界の全てが偽りに見えてくる。もしかして、僕は何か大きな陰謀の中にいるのか?』


 ――死人が見える? おかしなことを言い出したな。


『そうか。僕に色々教えてくれたのは父さんだったのか。見ていてくれてありがとう』

『もはや耐えられない。僕の研究と存在を脅かすものが、そこら中に! 僕は、みんなのために研究をしているのに! みんなは僕の敵なのか!?』

『これが最後の告白だ。もうすぐ、新しい世界へ旅立つ。ここには居場所がないんだ……さようなら、偽りの世界』


 寒気がした。

 桑名の書き込みと、ほとんど同じだ。

 少しずつ、おかしくなっていった。

 最後はおかしなものが見えて、今の世界を『偽りの世界』と判断して、死後の世界へ行く。


「これ、見て。田中のアカウントも同じような感じになってるよ。最初は普通の投稿から、徐々におかしくなっていって……」


「うん、見てる……。桑名さんと同じような変化があるね。ここで言ってる『死んだ父さん』って、もしかして……幻覚?」


「可能性は高い。ストレスやプレッシャーで心のバランスを崩して、幻覚を見るようになったのかもしれない」


「けど、それって普通のこと? そんなに簡単に……」


「普通ではないな。何か特別な要因があったはずだ。環境的なものもあるかもしれない」


「ChatAI……。田中さんと桑名の研究室は一緒だよね。そこで何かあったのかな……?」


「それはまだわからない。でも、共通の要素としては無視できない。もっと情報が必要だ」


「うん……。でも、この『彼ら』って何? 本当に幽霊のようなものを見てたのかな……」


「それも分からない。ただ、桑名も田中も何かに追い詰められていたという感じはする。幻覚だろうが何だろうが、彼らにはリアルだったんだろう」


「怖いね……。二人とも、最後は『新しい世界へ旅立つ』って言っているし。本当に何かに導かれたみたい」


「そうだな。次は、この二人の関係者や知り合いに話を聞いてみるといいかもしれない。そこから新たな手がかりが見つかるかもしれない」


「そうね。でも、慎重に行動しないと。この『彼ら』ってのが、もし本当に存在する何かだったら……わたしたちも危険かもしれないから」


「そうだね。今はまだ推測の域を出ない。ただ、これだけは言える。桑名も田中も、何かに深く影響を受けていた。その『何か』が、この事件の鍵を握っている可能性が高い」


 彼らは、自ら死んだ。


 まるで、何かに招かれているようだ。


 死後の世界に、招かれる。


 それはもしかしたら、親しい誰かの姿をして。




 ひんやりとした風が吹いた。




 気付けば辺りはかなり暗くなっている。

 月明かりの下で、男子学生が見えた。


 その姿は、見覚えがある気がした。


 かなり背が低く、見たことのある服を着ている。


「……桑名?」

 オレがつぶやくと、柊が怪訝な声を出す。

「え?」


 桑名によく似た後姿が遠ざかっていく。


「桑名!」


 オレは立ち上がり、駆けだした。

 慌てた様子で柊がついてくる。


「桑名なのか!? 待ってくれ!」


 声をかけているが、その後ろ姿は止まることはなかった。


 歩いていく。


 だが、距離は徐々に縮まっていく。


 前にいる人影は、建物のところで曲がった。


 もうすぐ、追いつく。


「桑名!」


 後ろを追いかけて、彼と同じように曲がる。

 すると、その先には、暗い闇が広がるだけだった。


「急に、どうしたんですか。慧くん……」

 荒い息をつきながら柊が言う。


「……いま、誰か、こっちにいたよな……?」


「えっと。慧くん……? わたしには、誰も見えませんでしたよ」


 柊はそう言った。

 だが、間違いなく言える。

 人影はいた。


 だが、それが桑名だったかどうかは自信がない。

 そうあってほしいとオレが思ったから、桑名に見えてしまったのかもしれない。




 家に帰ってからは、それが本当にいたのかどうかすら、怪しく思えてきた。

 




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 あとがき


 ここは読み飛ばしてくださって結構です。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。


 カクヨムコンというコンテストに出させていただいております。

 よろしければ、★やフォローでの応援をよろしくお願いいたします。


 この作品はフィクションであり、実在の人物・団体などには何の関係もありません。

 なお作中で行われている行為は現実で行うと犯罪として処罰されるものがあります。

 絶対に真似しないでください。


 もちぱん太朗。

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