人生は経験の連続だから
一階層には
そのあと私は魔力を温存するため、戦闘は他のメンバーに任せきりになった。
魔物との戦闘よりは、薄暗い中を長時間進むほうが辛かった。確かに二階層は明るかった。ただ何処にも光源がない。造り自体は同じような壁が続き、まるで迷路のようになっている。
何だか何のためにここにいるのか分からなくなりそうだった。もちろん、ここを踏破すると金銀財宝が手に入る。そして冒険者としての実績も積める。ただ、代わり映えのしない光景が、その主体を見失わせるのだ。この場所を嫌って、魔境の魔物を狩って日銭を稼ぎ続けるものたちがいるのも頷ける。
理屈屋にとっては気味が悪いのだ、ここは。どこからともなく現れる魔物、壊れない壁、存在しない照明、湧き続ける金銀財宝。全てが謎に包まれている。理屈が分からないからこそ人類は
「……ここを踏破した人たちもいるわけだよね」
「ああ。ここは魔宮攻略組にとっては最初の壁だ。結構な人数が最下層にたどり着いているはずだぜ」
ネネが答えた。
「確か全部で十階層」
「アタシたちはまだ五階層までだけどな」
「私の加入を機により深く潜りたいんだよね」
「そうさ。あわよくば踏破する」
「それはどうだろう」
「そのくらいの気持ちってことだ。だからパーティーに入れ」
「とりあえず気持ちだけ受け取っておく」
「クソが」
二階層も主に出現するのは刃蠍だ。他にはドロドロした砂を吐く
砂蛙は人間の腰ほどの背丈を持ち、体表から粘液状の砂が噴出している。長い舌は伸縮速度が速く、本体は鈍足なものの、遠くから絡めとるように攻撃する。身体は伸縮性があるため、そのまま人間を食べてしまうのである。
一方荒野兎は基本的に害はなく、ただ走るのが好きなだけの存在だ。ただ酷く臆病でありながら、自分たちが臆病であることに憤りを持っており、追い詰めすぎると反撃してくる。飛び蹴りの要領で繰り出される一撃は、骨の一本くらいは容易く折る。灰色の毛を持ち、背丈は人間の膝部分くらいである。小さいながらに強いのだ。とはいえ、明確な殺傷能力を持つのは刃蠍くらいのもので、油断していなければ大丈夫だろう陣営だ。
レイジュが荒野兎と飛び蹴り対決を始めた時は、その緊張感のなさに呆れたものである。両者の足がぶつかり合うと、吹っ飛んだのは荒野兎の方だった。私が同じことをすれば、足の骨や靭帯を潰してしまうはずだ。前衛職の凄まじさを見た。アルタイルの一目見て分かる筋肉量も凄いけど、曰くその密度はレイジュの方が上らしい。密度はちょっとよく分からないけど、確かにレイジュの身体は美しかった。太腿を触らせて貰ったら、その岩のような硬さに驚いた。
「なるほどね」
私はウンウンと頷いた。
「あんだよ」
レイジュが睨みながら言った。
「自分よりも筋肉つけられたら、男は立つ瀬がないんだな。殴り合いの喧嘩をしても負けてしまうだろうし、雄としての矜持が許さないんだよ。ゆえにレイジュは未だに独り身だ。ああ可哀そうに」
「ぶっ殺すぞ」
「はは。精々頑張ることだね」
「そういうお前はどうなんだよ」
「ご想像にお任せするよ。人生は経験の連続だから」
「限りなくうぜえ」
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