第5話 制約




(う~~~む~~~)


 秘密の世界に連れて行くか否か。

 一旦保留にした白龍は道士に瞑想に励めと言い置いてのち、飛翔して到着。

 結界で守られた秘密の世界は、四季折々の植物が静かに厳かに存在する、仙界と同じく墨彩画のような世界であった。


 白龍は人化して自ら建てた庵に入ると、早速菓子作りを開始させた。

 今日はふかし饅頭である。

 皮は黒糖入り米粉、中の餡はこし餡にしよう。




 厳格であらねばならぬ。

 己に課した制約。であったにもかかわらず、その制約に押し潰されそうになって息抜きにと久方ぶりに地上へと降り立った時に、出会った、菓子。

 人間が作り上げた至高の芸術品にして美味の甘露。

 目も心も奪われてしまった。

 自らの手で作り上げたい。

 そう欲を抱いた時から、必死で修行をして人間に変化する術を身に着けて、見よう見まねで菓子作りを開始させて、もう、長い月日が経ってしまった。

 本当は人間に指南を仰いだ方がいいとは分かっている。

 が、白龍という立場から憚れて、我流で作り続けていた。

 自ら作って、自ら食べて、美味しいような美味しくないような感想を抱き続けた。


 仙界の守り手である白龍が、道士の制約を破るなどあってはならぬ。

 仙界の守り手である白龍が、人間の食べ物などに現を抜かすことなどあってはならぬ。

 自ら責めては戒める日々も続いたが、どうしても、菓子作りを止めることはできなかった。











(2024.1.31)



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