第8話 理系クラス
ハルマは理系で、俺は文系だからクラスは分かれている。
俺が気づかないくらいだから、きっとハルマは理系クラスの誰かが好きなんじゃなかろうか。
一緒に帰るために、理系クラスに行く。
ハルマはタツオミと話をしていた。
タツオミはどの教科も成績がいい秀才だ。
でも、数学だけならハルマが上だった。
ハルマがタツオミに数学を教えている。
タツオミに数学を教えられるのはハルマだけ、とも言える。
にわかにタツオミが怪しい。
見た目も爽やかでカッコいい。
小柄で線が細いハルマと、男らしい身体つきで精悍な顔つきのタツオミ。
タツオミがキスをして、ハルマがうっとりする絵面を思い浮かべる。
イケる!
全然似合う!
とりあえず、タツオミの周辺を探り、男でもいけそうならそれをハルマに伝える。
そしたらハルマも告白しやすいだろう。
――――――――――――
二人が話しているところに入っていく。
「あ、ごめんね。長引いて。」
タツオミが言う。
「いいよ、待ってるから。」
俺はそう言って、近くの空いてる席に座った。
他のクラスメイトもほぼ教室を出ていた。
「もう終わったから、大丈夫。」
ハルマはそう言って、片付けを始めた。
「……なあ、良かったら、今日、タツオミも一緒に勉強しない?」
俺がそう言うと、二人は驚いたような顔をした。
「まあ……学年トップのタツオミに、数学の偏差値70のハルマに対して、俺が教えてあげられることは何もないんだけどさ……。」
思いつきで言って、恥ずかしくなった。
「でも、タツオミは予備校あるんじゃないの?」
「いや、今日は無いから大丈夫。良かったら行こうかな。さっきハルマに物理教えたけど、ちょっと違うかもって思うところが出てきて……。そこもう一回いいかな?」
なんて誠実なタツオミなんだろう。
俺からは想像がつかない会話だ。
場違い過ぎる。
ハルマも、俺なんかじゃなく、こういう男と一緒にいた方がいいんじゃないだろうか。
そういう流れで、ファーストフード店に入った。
まずタツオミがハルマの物理の問題を解き直して、教えていた。
何を言ってるかはわからないが、タツオミの落ち着いた声や語りの柔らかさは心地良かった。
あんな声で口説かれたらひとたまりもない。
ハルマも、いつも一緒にいる時より真剣な顔だ。
うん、まあ、俺と一緒にいて、真剣さが必要な場面はないからね。
ハルマの方が終わり、俺に何か質問はないかと話を振られた。
「国語のプリントなんだけど、この問題のとこいいかな?」
タツオミが解説をしてくれる。
すごくわかりやすい。
先生を超えてるところがある。
できるやつは何でもできるんだな、と思った。
「リョウスケは、国語の単語帳は使ってる?」
「え、何それ。」
「抽象的な言葉や今話題の用語の解説参考書だよ。評論なら、あらかじめ内容の方向性がわかったら、解きやすいだろ?」
なるほど、真面目にその場で一から考えるのではなく、あらかじめ話題に触れておくんだな。
「これ、良かったらしばらく貸すよ。」
タツオミが国語の単語帳を貸してくれた。
パラパラとめくると、丁寧にラインが引いてあったり、書き込みがしてある。
これを持っただけで頭が良くなりそうだ。
「あ、ありがとう!やってみるよ。」
そこからは少しおしゃべりをして、帰宅した。
家に帰り、テキストを開く。
いつもなら、ハルマの家から帰って来たらすぐダラダラしていた。
でもそれじゃダメな気がした。
タツオミの雰囲気に、良い意味で火をつけられた。
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