通信制女子高生の大学受験

おじゃが

第1話 オープンキャンパスでの現実

 桜が舞う季節。

「双川大に来ないか?」

 担任の野口は、高校3年生の私にこうアドバイスした。中学時代に学業面でつまづき、高校は通信制女子校を選んだこの私、西脇わたげだけど、姉妹校の通学制大学『双川産業大学ふたがわさんぎょうだいがく』は男性の多い共学。私と男性が関わった暁には、冷やかしが飛んでくるだろう。あぁ、嫌な予感しかしない!

「双川産業短期大学の通信制でいいです……」

「わたげさん、せっかく頭いいし社交的なんだから、双川大行こうぜ?ほら、資料渡しとくからよ」

「……わかりました」

「あとお前さ、同じ通信でもなんで女子校を選んだんだ?男は嫌いか?」

 野口が首を傾げながら尋ねる。

「いや、うるさいし冷やかしが嫌で……」

「なーにいってんだ。お前なんか、男ウケよさそうだからモテ期来てウハウハだぞ?冷やかしはご褒美だと思え」

 担任のその言葉に、私は呆れてしまった。

「まったく、根拠の無いことを言って」

 私がそうぼやくと

「なんか言ったか?」

 と野口が鋭い目を向けるので

「いえ、何も言ってません。失礼しましたーっ」

 焦りながら私は逃げるように帰宅の準備を整え、資料をもらって教室を出た。




 家に帰って双川大のパンフレットを見ると、どうやら姉妹校推薦で内申が指定を超えていると、返還不要の奨学金が半額給付されるらしい。私の内申は余裕で足りている。これは行くしかない、いや、ここしか私の家計では行けないと悟った。


 そして、学部は美術学科と経営学科があると知った。経営学科より美術学科のほうが学費は高いが、私はどちらかといえば美術学科に行きたいと思った。というのも、美術学科はマトモな人が多いけど、経営学科はサッカー部が猿のように授業中騒いでいるという口コミを聞いたのだ。そして、経営学科は、日本人男性が100人に大して、日本人女性が3から4人。


「頼み込むしかない」

 そう私は呟き、母親に交渉を始めた。



「お母さん、双川大ってね、返金不要の奨学金もらえるらしいよ」

 と私はジャブを入れる。

「へーどうやったらもらえるの?」

「内申が高ければもらえるよ。私は全然足りてる。だから美術学科行きたいなー」

 とおねだりすると、すかさずド正論が飛んできた。

「わたげは手先が器用な方じゃないでしょ。経営学科にしましょう。学費安いし」

 出た、何も現実を知らない頑固バカ母!

「めっちゃうるさいサッカー部いるんだよ!?それに男女比で男性が異常なくらいいるんだよ!?」

「わたげは今までの経歴で男に恵まれたと思った方がいいよ。今まで男に助けてもらってたでしょう」

 だが同性の視線は痛いぞ。男もむしろ私と付き合ってると見られて嫌かもしれないんだぞ。


「まぁいいわ。オープンキャンパスにとりあえず行ってみよっか」

 と母親が提案してくれたので、

「そうしよう」

 と私は微笑んだ。



 オープンキャンパスでは、体験授業が受けられるので、経営学科の公務員試験の授業を受けた。なんか色々効率的な勉強法があるよーみたいな内容だった気がする。すると、講義終了後授業が終わるまで別の場所で待機していた母親が、笑みを浮かべている中年の男性と一緒に座っていた。

 母親は冷や汗を浮かべている。


「なんか、お昼一緒にどうですかって誘われたんだけど……」

 と母親は私に訴える。白髪で茶色いメガネをかけた営業スマイルを浮かべる男性は、経営学科の教授らしい。

「一緒に食べましょう」

 と私は即答した。



「内申はどれくらいありますか?」

「だいたいオール5ですかね」

「素晴らしい!これなら半額給付されそうですね」

 そう経営学科の教授が褒めるが、問題はそこからだ。

「通信制で……」

「あー……じゃあ半額給付は無理ですねぇ」

 なんだって?

「通信制高校では3割給付が限度なんですよォ」


 ま・じ・で?


「そ、そうですかぁ……」

「通信制高校から半額給付は、前例がないんです」

 私の希望は一瞬で朽ちた。そんなの、答えは決まっている。あとから美術学科の人とも話し、口コミ通りの現実を知ったけど、母親はそれでも揺るがない。

「経営学科確定だね」

 と母親が笑っているのを横目に、私は絶望した。

 生暖かい風が吹いている。経営学科に入ったとして、これで女子グループに入れなかったら人生が終わる。


 でも、それでも給付が3割だとしたら、双川産業大学にすら行けない場合だって考えられるんだ。


 どうなっちゃうんだろう、私。

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