30
友人に彼氏、彼女の報告したいこと。その出来事でほぼ頭の中が占められていて、自宅に行くまでの会話がまったく頭に入らなかった。テストで過去最高得点をとったことなんて、もはや些細なことに感じるくらいだ。
そんな上の空な状態で自宅につき、とりあえずいつもみたいに紅茶を用意していつものソファに座っている彼女の隣に私も座る。
彼女は早速カップを持ち香りを楽しみ、一口飲む。
「あ、これウチの紅茶?」
「うん。その……特別な日に、と思って」
「そうね、2つの意味で特別な日になるわ……!」
ふふんと得意げにカバンの中から一枚の紙を取り出した。その紙は彼女宅に行ったときに見たことのある紙で、普通科の50番目までの順位がかかれている表だ。
「中みたの?」
「もちろん見てないわ。でも今回は自信あるの」
「前回もそんなこと言ってたような……」
「前回は実質入ってたようなものよ! だって解答欄ずれてただけだもん……」
なんていっていじけたように紙を弄ぶ。まぁ、確かにねえ。
「でも今回勉強してる様子なかったみたいだけど」
「驚かせようと思って、ヒロムの前では勉強してなかっただけ。ちゃんと家ではしてたのよ」
「え、一人でしてたの?」
「んーん。誉さんと秀王くんにビデオ通話で教えてもらってたの!」
なんと。私の知らない間に……ある意味順位より驚くべき事象かも。
というか特進と普通科のトップ二人に教えてもらえるなんて、よく考えたらものすごく贅沢だと思う。
「そっか、頑張ってたんだね」
手を伸ばして隣に座っている彼女の頭をよしよしするとそのままぽすっと私の肩に頭を預けてきた。構わずに私はそのまま頭を撫で続ける。
甘え方がどことなく猫っぽいななんて思っているとおもむろにたたまれていた紙を開いた。
「……か、確認するわよ」
「うん」
彼女は恥ずかしそうにしながら、順位を目で追っている。こちらでも一位は当然のように遊馬秀王の名前があった。
私たちの幼馴染って神様に愛されすぎてるような気がする。
なんて彼の名前を見たとき思ったが、一足先に順位表を見終わった彼女の指に力が入った。
「あった! あったわよ、ヒロム!」
下から数えた方が早い順位に彼女の名前はあった。今度こそちゃんと彼女の名前が。
「わぁ、おめでとう秋ちゃん! お疲れ様」
「え、えへ、えへへ……ありがとう……」
よっぽど嬉しかったのか、口元がかなり緩んでいる様子。というか今回別に約束してないけど、私これいうこと聞かないといけない感じなのかしら。
なんていつもとは別の意味でドキドキしていると予想通りというべきか、何かを求めるような表情でこちらを見る。
「ね」
「うん、だめ」
「まだ何も言ってないじゃない!」
「あはは、冗談。とりあえず言いたいことがあるなら、聞くだけ聞いてみるけど」
「あのね、夏休み中にヒロムの部屋でお泊りが――」
「はい、無理です。この話終わり」
ぴしゃりとはっきりお断りして前にある紅茶を一口飲む。
彼女も当然納得いってないのか、一瞬言葉に詰まったようだがすぐに反論してきた。
「な、なんでよ! 別にそんな無理なこと頼んでないじゃない」
「……ごめん、部屋本当に汚くてさ。人いれたくないんだ」
「お手伝いの人が掃除してるんじゃないの?」
「私の部屋だけはしてないんだ。人いれたくなくて」
もう一口紅茶を飲み、カップを静かに置く。しっかり彼女に伝わるように。
「だからさ、悪いけど――」
「じゃあ私もヒロムのいうこと何でも聞くわ。だったらいいでしょ?」
彼女は縋るように私の肩と手を握る。私の部屋にはそんな宝物ないのにな……。
嫌がる私にそこまで強いてくる彼女に面倒くささにも似た諦めの感情が湧いてきた。
どうでもよくなって、思わず自虐気味に笑ってしまう。彼女はそんな私に少々驚いているようだった。
「じゃあ今ここで自慰できる?」
「じい……え?!それってその、お、おな……」
「うん、まあオナニーともいうね」
「は、はっきり言わないでよ! で、できるわけ……」
「できるわけ?」
「……できるわけあるでしょ!」
彼女は立ち上がってやけくそ気味にネクタイを解き、スカートのホックを外しチャックを下すとぱさっとスカートが落ちた。え、本当にやるの?
心臓が跳ね上がるほど驚いてしまい、その姿に釘付けになってしまった。彼女は今からやろうとしていることの重大さに今更気づいたのか恥ずかしそうに俯き、ぼそぼそと何かを呟いている。
「は、恥ずかしいから……カーテン閉めて欲しい……」
「あ、う……」
言葉にならない言葉が出ると私は言われるがままふらふらとカーテンをしめにいった。薄暗くなった室内を確認すると彼女はブラウスのボタンをゆっくり外し始める。
最後のボタンに手をかけるまでほんの数十秒だというのに、何時間にも感じられた。一番下のボタンを外し、そのブラウスまでもが彼女から離れる前に私はなんとか我を取り戻し、慌ててブラウスを肩にかける。
目の前に最後の砦であるブラと彼女の豊満な肉体の証である谷間があるが、慌てて目をそらす。
「だ、だめだよっ! こんなの!」
「あ、ああああなたがやれっていったんじゃない!」
「こういえばひきゅと思ったの!」
「ひ、ひきゅって……ヒロム取り乱しすぎ」
「なんでもいいから早く制服着なおして!」
緊張感がとけたのか笑い出した彼女を尻目にくるっと後ろを振り向いた。衣擦れの音だけが響く室内に心臓が落ち着かないが幸いにも彼女はあまり気にしていないようだ。
もういいわよ、と言われ振り向くと見慣れた制服姿の彼女がいてようやく心臓が落ち着いた。
「なにほっとした顔してるの?」
「いや、ハハハ……」
「なによ、ヒロムがやれって言ったくせに……」
面白くなさそうにぼそっと呟いていたがしっかり私には聞こえている。ちくちく良心が痛んだ。
確かにやれっていったのは私だけど、本当にやるとは思わなかったし……なんて言い訳してもだめか。冗談でもこういうことをいってはいけない。
今度は申し訳なさがあふれ出てきて誤魔化すように笑ったが、きっと引き攣っている。
「ごめん、あんなこと冗談でも言ったらだめだよね。私も考えが足りなかった」
「……私こそごめんなさい。あなたが嫌がること強制してしまって」
「ああ、うん。それはもういいよ。部屋おいで」
「え?」
彼女がどんな想像をしているかは知らないけど、私の部屋を見てどう思うんだろう。ぐつぐつと湧き出る恐怖と吐き気を懸命に出さないようにしながら、彼女を自室へ案内した。
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