第75話 一方的に殴られる恐ろしさを思い知った人類
木が集まったような、ウッドゴーレム。
棍棒を持ったゴブリンからオークまでの、大小そろった軍勢。
骸骨すら、その黒い眼窩を赤く光らせている。
数は、ぐるりと高い塀で囲った都市を囲めるほどだ……。
それぞれを切り取れば、必ずしも倒せない強さではないものの――
塀の上にある回廊から覗いていた少女は、頭を引っ込めて、息を吐いた。
ルイーゼロッテ・フォン・ホルム侯爵令嬢。
すでに家名を名乗れない彼女は、旅装束のまま、途方に暮れる。
「まいったわね! もう、世界の終わりとは……」
ここは、フェルム王国のランストック伯爵領への途中。
シフィドツカ。
突如として湧いたモンスターに対して、周辺は全滅したと思われ、生き残りを収容しての立て籠もり中。
けれど、城塞都市は囲んでいる塀で守られていても、大きな田畑はなく、引き込んでいる水源も少ない。
(この時点で、ほぼ詰んでいる……)
ルイーゼロッテが悩んでいると、若い男が近づいた。
フォルカー・ナーレスという、騎士団の中堅だ。
騎士爵の後継者らしい。
「大丈夫か、ルイーゼ? お前だけでも、ここから――」
「それ、囲まれる前に言いなさいよ? ハアッ……。こんなことなら、学院に残っていれば良かった!」
少なくとも、立て籠もっての餓死か、その前の暴行を避けられた。
(死んだら、物理的に食われそうね?)
いっぽう、落ち込んだフォルカーが謝罪する。
「すまない……。あいつらには、攻撃が効きづらくて……。こんな田舎に魔剣の用意は」
彼の視線は、ルイーゼロッテの腰の側面に……。
自分の魔剣を見ていると分かったことで、ルイーゼロッテが答える。
「別に……。これを手放しても、身を守れないわ! どっちみち、戦うしかない」
「ああ、そうだな! 俺だって、本当は――」
アピールを始めた男を後目に、ルイーゼロッテは嘆息する。
(マルティナ・フォン・ファルケンヴァングが言いたかったのは、これ?)
敵は魔を含むことで、全体的に強化されている。
対して、人類にある武器は、魔法が込められているであろう魔剣だけ。
(絶望的じゃない!)
食料が減れば、内輪揉めが始まるだろう。
その時に、ルイーゼロッテは外で仁王立ちの人影を見た。
「あいつ……。何をしているのかしら?」
「禍々しい鎧から、きっと奴らの幹部だろう! 奴だけでも、俺が倒せば――」」
懲りないフォルカーを無視して、引きつった顔のルイーゼロッテが心の中で突っ込む。
(グザール隊のリーダーだったアドリエン・カザルティ……。何やってるの?)
いつの間にか、フレムンド学院を出ていたらしい。
周りのモンスターは彼を襲わず、まるで従っているかのよう。
別の方向に目をやれば、高い木の上でナマケモノに食料を献上させている、尖った耳を持つ銀髪ツインテールの姿。
学院をクビになったアマスティアだ。
不貞腐れた様子で、果物をかじっている。
アマスティアの精霊術を恐れてか、モンスターが近づかない空白地帯に。
野生動物などが寄り集まり、生存者の一部もいる。
(いや、何なの?)
助けを求めるというより、混乱するルイーゼロッテ。
しかし、ここでモンスターの群れをまとめている指揮官が、モンスターの群れの中で宣言する。
ヒトの骨が燃えているような、アンデッドだ。
『ハハハッ! 魔王さまの支配に加わり、その苦しみを止めるがいい! 私はエンシェント・リッチのクロムザ! 人類がこれほど弱くなっていたとは、驚きだな?』
多少は倒したが、このクロムザによって補充され、文字通りにキリがない。
自分の左腰に手をやったルイーゼロッテは、消耗した魔剣が後どれだけ耐えられるか? を考える。
(あいつは、私じゃないと倒せない……。だけど……)
守りが厚く、まだ切り札もありそう。
精神を削る1日が終わり、交代による休息へ。
唯一の戦力で、元貴族と分かったルイーゼロッテは、特別待遇だ。
他とは違う食事を与えられ、ゆっくり休もうと――
コンコンコン
警戒しつつドアを開ければ、フォルカーがいた。
「悪いが、少しいいか? 話したい気分なんだ……」
「……他の人もいる場所で、少しなら」
――酒場
飲んだくれている兵士もいたが、フォルカーの姿を見て、場所を変えた。
いつの間にか、貸し切りのように……。
テーブルをはさんで、向き合う男女。
マスターはルイーゼロッテの様子をうかがい、温かいハーブティーを2人に。
意を決したように話し出す、フォルカー。
「お前は、フレムンド学院にいたんだよな? 家同士が決めた婚約が嫌で逃げたとか」
「ええ、そうよ……。今となっては、過去だけど」
「俺も……それに立候補していいだろうか?」
ようやく顔を上げたルイーゼロッテに、フォルカーが告白する。
「この都市を守れたら、2人で一緒に旅でも――」
「そういえば、ジンという男を見なかった? 私と同年代で、同じ学院にいたんだけど……どうかした?」
この状況を打開する方法を探るルイーゼロッテだが、一世一代の告白をぶった切られたフォルカーは、それどころではない。
固まったままの彼に、先に休むわ、と告げて、部屋に戻る。
我に返ったフォルカーは、やけ酒になった。
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